クルス・アテーナー

てんのこえDX

少し前からある事件が起こっていた。
それは埋葬された遺体が何者かによって掘り起こされているというものだった。
犯行は必ず真夜中に起こるという。
初めのうちは数体だったが次第に数は増え続け、墓は空の穴だらけになってしまった。
一体誰がこんなことを・・・。

墓を荒らす者の目撃情報はある。
その者は黒いローブを纏い足元は暗くてよく見えないが赤いブーツをのぞかせていた。
肩幅や身長から恐らくは小柄な少女だろう。
呪術師か。死人使いか・・・。
村の者たちは恐れ、もはや墓に近づく者はいない。
そんな中、村の村長から依頼を受け一人の男がやってきた。
彼の名はアリャン。神の化身と呼ばれたバルバンの弟子である屈強な男だ。
体格に恵まれ2メートル近くある身長と130キロを超える体重は正に岩の塊である。
呪術だろうと何だろうとかまわぬ。早く来るがよいとテントを張り3日も墓の入り口にて待ち構えていた。

4日目の深夜1時を過ぎた頃。
遂にその者は現れた。
黒いローブを纏い、赤いブーツを履いた小柄な少女。
間違いない。
その者は山のように立ちはだかるアリャンに目もくれずに進んでくる。

「お前だな?墓を荒らしている呪術師ってのは」
少女はアリャンの前で止まり、顔を見上げる。
黒いローブから覗かせたその顔は前髪の短い、緑の瞳を持つ輝かせた少女だった。
「ここに何の用だい?」
決して油断しているわけではない。
いつでも動けるようにアリャンの体は警戒をしている。
「ぼくの邪魔をするのかな?」
少女は優しく微笑んでいる。
一体何が目的なのか・・・。
「ここの死体をどこにやった?案内してもらおうか」
強烈な眼光で睨み付けるアリャンだったが一瞬にしてその眼は恐怖に変わる。
緑の瞳の少女から放たれる異様で禍々しい気を感じ取りアリャンの体は震えあがったのだ。
「お、お前・・・。一体何者だ・・・!」
冷え込んだ深夜の中、脂汗が止まらない、呼吸も荒くなってゆく。
死のイメージがアリャンを支配してゆく。
「うぉぉぉぉぉ!!!!!!」
恐怖を払いのけるかのような咆哮を上げると少女の頭を右手で一気に刈り取る!
手ごたえは無い。黒いローブを刈り取っただけだ。
目の前には赤いドレスを身にまとった褐色の少女がいる。
相変わらず恐ろしい気を放っている。
アリャンは一気に後方へ飛び距離をとろうとするも同時に少女も詰めてくる。
こいつは人間じゃない!人間の反応じゃない!
恐怖に負けぬよう必死に自我を保ち少女の左腕を剛力で握りつぶすように掴む。
と同時に右の手で少女の首を同じように握りつぶすように力で締め上げながら一気に後方にある巨木に叩きつける!
叩きつけられた巨木に少女は深々とめり込み、尚もアリャンは力で左腕と首を全力で潰しにかかる!!
が、いくら力を入れても潰れない。まるで軽く握ってるかのようにめり込みもしない。
少女の体が硬いのではない。まるで意味が分からない・・・。
「これでおしまいかな?」
巨木に叩きつけられてもダメージがなく涼しい顔をしている。
「く、くそぉぉぉ!!」
巨木から少女を引っこ抜き地面へと叩きつける。
凄まじい音を上げ地面に横たわる少女の頭に向かってアリャンの足が降る下ろされる!
頭をトマトのように潰す!確実に殺す!殺す!殺すぅぅぅぅ!!!
凄まじい音と共に少女の頭を踏みつぶし地面に穴が開く。
土煙が上がり静寂が戻る。
少女はピクリとも動かない。
・・・・・終わった。
はっと我に返る。一体自分は何をしていたのか。
目の前に倒れている少女の頭を自分の足が踏みつぶしている。
潰した脚の裏に少女のぐちゃぐちゃになった頭の破片がまとわりつく。
「ああ・・・・おれはなんてことを・・・・・・」
恐る恐る足を引き抜こうとしたとき、少女の体が跳ね上がり赤いブーツがアリャンの顎を蹴り上げた!
「ぐぶっ!!!!!」
凄まじい破壊力にアリャンの顎の骨は砕かれそのまま巨体は宙に飛ばされ自由落下で地面へと落ちた。
もはや戦闘は不能。微かに残った意識で少女を見上げる。
少女の頭は潰れてはおらず土を払いのけるとアリャンを見下ろす。

はは・・・よかった・・・殺してなく・・・て

目が覚めたら村長の家のベットに寝かされていた。
一体あれからどうなったんだ!?
村長に聞いてみたがいつの間にか家のベットに寝かされていたらしい。
まさかあの少女が俺を担いで寝かせたというのか?!
それと、持ち出された死体は全て墓へ戻されていたという事だ。
ますますわからん。何が目的だったのだ・・・。
しかし・・・・あの時、私の心は恐怖に支配され我を忘れてしまった
武術家として心を支配されるなどあってはならぬこと。私もまだまだだということだな・・・。
蹴り砕かれた顎に痛みが走る。
確かに恐ろしい化物ではあったが・・・・。
美しい娘だったなぁ・・・。
殺されかけたというのに何を考えているのかと一人笑うアリャンだった。

「あら?クルス?あの人形たちはどうしたの?」
クルスの担当をしている黒髪の魔術師アネットは夜な夜な集めていた
人形が全て無くなっていることをクルスに問いかけてきた。
するとクルスはにこやかに返してきた。
「もう必要ないんだ。それに、アネットもあれがあると困るでしょ?」
大量の遺体が住まいにゴロゴロ転がっているのは迷惑極まりないことだ。
「いいことに気が付いたんだ。だからもう連れてきたりしないよ」
何があったかは分からないが墓荒らしを止めてくれるのはアネットにとって安堵するところだった。
「それはよかったわ♪ところでその土は何?」
「これはね・・・」
土は盛り上がり人の手へと姿を変え始めた。
「こ、これは・・・」
「昨日、人間と戦った時、地面に埋め込まれちゃって。その時土の声を聴いたんだ」
人の手に姿を変えた土はうねうねと指を動かしアネットの元まで歩くと白いブーツを這い上がってきた。
膝辺りまで登るとバランスを崩し、床に落ち、バシャッと音を立てて元の土へと戻ってしまった。
「クルス・・・。また力を伸ばしたのね・・・」
操るだけでなく変える力まで昇華させた。
命は土に還る。植物も動物も虫も人間も・・・。土は遺体そのものなのだ。
このまま力を伸ばせば最も恐ろしい存在になるかもしれない・・・。
「ところで戦った人間はどうしたの?まさか殺してしまったのかしら?」
殺人は面倒ごとになりかねない。出来るだけ回避したいところだ。
「強そうだったから殺して連れてくるつもりだったけど、このことに気付かせてくれたんだ。
感謝のしるしに村まで連れて行って寝かせてあげたよ」

こうしてクルスは質の良い土を求め始め、やがて日本へ来ることになるのだった。

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2023-12-24 15:05:24 +0000