寮に運び込まれた荷物の各収納具合を確認した私は、表にレースの刺繍が施された黒いビロードのリボンを目の上にあてがい、頭の後ろで結んだ。
途端に視界が闇に閉ざされる。
光を通さず、隙間から足元が見える事もない。
思わず呼吸が速くなる。
不安と緊張、だけどそれだけじゃない、不思議な高揚感。
目隠し女学園での日々に備えて、様々な色や模様、素材のリボンやアイマスクを用意した。
例え自分で見えていなくても、やはり可愛い物を身に着けていたい。
目隠しのお洒落にも気を抜かないのが乙女心というもの。
この黒いレースのベルベットも数あるお気に入りの一つだ。
柔らかい感触が心地良く、優しい肌触りに心が落ち着く。
目隠し女学園での新生活に際して、私は寮を選んだ。
自宅から通学する娘もいるし、両親も車で送迎すると言ってくれた。
けれど私は常に目隠ししたままで過ごす寮生活を選んだ。
女学園が目隠しを身に着ける伝統を重んじる元となった伝説の生徒会長。
現在国際的に活動し、その貢献を世界各国から高く評価されている彼女に強く憧れた私は目隠し女学園への入学を決意した。
失明し、盲目となった彼女が互いに思い遣り助け合う精神を学んだ寮生活を私も追体験したかったのだ。
前へと手を伸ばし、机に手が触れる。
木の滑らかな表面としっかりした厚み。
頑丈さが感じられるその重量感が頼もしい。
幾重にも掘られた細工を指でなぞり、幅と奥行きを確かめる。
机に沿って左に回り込むと正面には本棚。
暖かい陽の光が差し込んでいる事を感じられる、机から向かって左側の窓ガラスに触れる。
冷やりとした硬い感触。
窓枠に沿って触り、鍵を探す。
窓を開放すると、甘く爽やかな春の新芽と桜の香りが吹き込んで来る。
頬を撫でる風が心地よく、風になびく髪を抑える。
盲目の生徒会長も四季の変化を肌で感じて、季節の移ろいを楽しんでいたのかしら。
目隠し生活を営んだ女学園のお姉様方に思いを馳せる。
カーテンの手触り、壁の質感、歩幅と歩数を慎重に測りながら、間取りを確かめていく。
制服を始めとした衣類を収納したクローゼットの表面を撫でて引き出しの位置と高さを確かめて、再び机に戻って来た。
室内を頭に描く。
大丈夫、きっとこの中では迷わない。
小鳥のさえずりに耳を傾け、これから始まる出会いと挑戦へと期待に胸を膨らませる私がいた。
2023-12-07 11:22:45 +0000