聖剣の目隠し乙女文字が普及していない古き時代において、知識を広め伝える吟遊詩人は賢者と呼ばれていた。
吟遊詩人の担い手はほぼ女性が占める。
魔物、あるいは蛮族の襲撃が相次ぐ血と鉄と暴力の時代。
敗れた土地に住む者は、先ず戦う男から死に、大半が傷つき命を落とし、生き残った者も奴隷に身をやつす。
辛うじて逃げ延びる事に成功した女性も多くの場合、別のならず者に捕らえられるか、怪物の餌食となる。
幾多の苦難と偶然の連続の果てに生き延びた女性が身一つで暮らしていく手段の一つに吟遊詩人がある。
神秘的を宿すとされる女性の歌声、奏でる楽曲は時として魔法にも似た不可思議な効果を発揮する。
敵意を鎮め、危険を遠ざける。
傷や病の直りを早め、作物の成長を促進する。
争うものを眠らせる。
疲れ果てるまで踊り続けさせる。
情報の伝達手段に乏しい時代において、遠方よりもたらす知識と奇跡の歌声は娯楽・実用の両面から人々に歓迎された。
女性が独力で危険な野を往き安全な勢力圏を目指すには限界がある。
多くの場合、神々に助力を乞い、そして人生を繋ぐに足る代償を捧げる事になる。
その身で最も重要であろう部位—両目を神々に差し出す事で街から街へ無事に旅を続ける強運と、より祝福された歌声を授かるのである。
2023-12-04 11:29:36 +0000