小説版
novel/21036912
ここは目隠し女学園。
女子生徒達が自発的に目隠しをしてお互いを尊重し、思い遣りと助け合いの心を学ぶ所です。
真白も今年の春から憧れの女学園の一年生です♪
中等科からの編入ですが、きっと素敵な出会いで満ちているはず。
お家から学園まで、目隠し登校を張り切って来ました。
私の家は学園に近いので、都市のバリアフリー化で設置されたガイド沿って歩けば迷わず辿り着けます。
心地良い聖歌の響きと香しい花々の香り、道路の点字ブロックが校門に差し掛かったことを教えてくれます。
『ごきげんよう』 『ごきげんよう』
友達たちと挨拶を交わし、桜並木を進みます。
ミィ…
その時でした、風に乗って微かな声が聞こえて来たのは―
やはり気のせいではありません。
遠くの方から子猫が助けを求める様なか細い鳴き声が聞こえてきます。
耳を澄ませて、鳴き声の方向を確認します。
踏み出した足の裏から伝わってきたのはようやく通い慣れ始めた通学路の舗装と異なる感触。
通路沿いに設置された手摺も無く、前方に差し出した手には何も触れません。
――怖い――
でも、子猫の声はきっと不安におびえている。
私は声だけを頼りに歩き始めました
知らない道を歩き続けて、やがて足元の感触が土と木の根に変わり何度も躓きながらどうにか進んで、4本目の木に触れた時、上の方から子猫の声が聞こえてきました。
木に登って降りられなくなったのでしょう。
お転婆だった私は、木登りは子供の頃から大の得意です!
目隠ししたままでも出来るはず‼
木の幹に触れて手がかり足掛かりを探し、声の元を目指します。
待ってて子猫ちゃん
ようやく横に張り出した枝先に辿り着きました。
枝に乗っても大丈夫…だよね?
!! 枝が揺れています! 怖くない…怖くない…
ほうらおいで。 こっちだよ~
ミャウ!!
温かい…柔らかな感触が私の腕に飛びついてきました。
怖かったね。もう大丈夫だからね
子猫を救助し、私も無事地面に降りる事が出来ました💜
さあ、学校に…あれ?ここはどこでしょう?
学園の敷地内、ではあるはず、なのですが…。
木から降りて完全に方向を見失ってしまいました。
ど、どうしよう…💦
キョロキョロと辺りに顔を巡らせますが、何も見えません。
目隠しを外せばすぐに元の道に戻る事は簡単ですが、入学早々視覚に頼るなんて真似はしたくありません。
お姉様方は卒業までを目隠ししたまま過ごされているのです。
私にだって出来るはずです!
自分を奮い立たせていると木漏れ日の温かさに気付きました。
太陽の温かさを感じる方向だと東は向こう!だから…校舎はこのまま歩けばたどり着けるはず。
…行けども、行けども、通学路の音声案内が聞こえてきません。
そんなに遠くまで迷い出てしまったのでしょうか…?
ガイドレールの点字案内は…知らない字です。
エリアごとに感触を分けている舗装もようやく慣れた通学路以外の場所ではどう違うのか区別がつきません。
こんな時は通路沿いの花壇に咲いている花の香で現在地を把握しましょう!
花の香りで今いる場所が分かりやすい様に、区画ごとに一年中咲き誇る様に品種改良した花樹が植わっていると入学初日に教わりました。
クンクン 甘くていい匂いがします💖
そうでした私は花の知識に疎いのです。
水の音がします
噴水も微妙に音を変えて方角を知るのに役立つと教わったのですが、その違いがまだ分かっていません。
暖かい春風に乗って甘やかな花の香りが漂っています。
きっと色鮮やかな花々が何種類も咲き誇っているのでしょう。
優しい日の光も、清らかな水の音も。
けれども、どれほど耳を澄ませても、匂いをかいでも、それがどこの目印なのか私には何もわかりません。
知っている馴染んだ感触を求めて私は必死に闇の虚空へ手を彷徨わせました。
どこまで歩いてきたのでしょうか?
もう何時間も歩いている様な、それともまだ十数分しかたっていないのか?
まるで暗黒の壁に飲み込まれていくような息苦しさに思わず胸を押さえます。
『あら、そこに誰かいるのかしら?』
穏やかに包み込むようなお声がしました。
『具合が悪いのかしら? 大丈夫? あなた新入生でしょう?』
ふわりと優しい手の感触が頬を撫でます。
『あなたの背丈だと…中等科かしら?』
「はい。今年から中等科一年に編入しました。あの、どうして新入生と分かったのですか?
『不安そうな荒い息遣いが聞こえて来たから、もしかしたら道に迷った娘がいるかもしれないと思ったの。
体調が悪い可能性もあるし、放ってはおけないでしょう?』
労わる様に髪が撫でられています。
恥ずかしい様な、でも心地良くて思わずウットリしてしまいます。
『私は中等科2年の尾根原小夜。サヤって呼んでね。』
『真白は、中等科1年、皆見真白ですっ」
『フフッ。真白ちゃん自分の事、真白っていうのね。可愛いわ💖💖』
不意に、背中に回される腕の感触。抱きしめられています。柔らかいです。良い匂いがします。
『スンスン、お日様に蜂蜜を溶かしたみたいな甘くていい匂い💕
ウフフ。これからは真白ちゃんが近くにいたら、すぐ見つけられるわ💕💕』
「小夜お姉さまもお花の素敵な匂いがします…」
『今日はラベンダーの手入れをしていたから、その匂いかしら。
さあ、朝の予鈴がならないうちに教室に向かいましょうか。チュッ💕』
短く私の頬に口づけをしたお姉様は、迷いなく私の手を取り歩き出しました。
頭がふわふわしています。
ああ、素敵なお姉様と出会えた今日という日はなんて素敵な一日なのでしょうか。
2023-11-16 12:31:11 +0000