「やったわ、ミドリ!ついに仇をとったわよ!!」
モモイはコックピットのキャノピーを押し開くと、グシャグシャに潰れたウルトラユウカの頭部へ飛び降りた。妹を殺した仇の顔を見届けてやろう。もしそいつがまだ生きているのなら、怨みの言葉を浴びせてやろう。
モモイはウルトラのコックピットから、白い制服の女を引きずりだした。外から見る限り女の体には傷ひとつ無かったが、唇も頬も既に血の気を失っていた。モモイは、女の顔を膝の上に抱え込むと、乱暴にゆすり続けた。閉ざされていた女の瞼がかすかに開いた。
「……私を…助け…出して……くれたの……ありが…とう……」
途切れ途切れの言葉とともに、女の口の端から細い血の糸が流れ出て、あごから胸に落ちた。モモイは、唇をぎゅっと噛み締めて女の顔を睨みつけた。
「あなた…の…あなたの…名…前は?」
モモイは、喉の奥から声を絞り出した。
「才羽モモイ!」
女の瞳の奥に光るものが走り、口元がわずかにほころんだ。
「あなたと…同じ…名前の…生徒を……知って……いる…わ…」
握りしめていたモモイの拳が震えはじめた。そうだろうとも。お前がミレニアム学園で殺した私の大切な妹の名前だ。モモイには、もう自分を抑えることができそうになかった。
その時、女の微かな言葉がモモイの耳を打った。
「私の…知るうち…で……最も…勇敢な…生徒…の名…前よ…」
驚きが電流のようにモモイの体の中を走った。何年も探し続けた、憎い、妹の仇の口から、その妹を褒め称える言葉が吐かれたのだ。
「も、もう一度!今の言葉をもう一度言って!!」
モモイは女の耳元で叫んだ。だが女の瞳はすでに何物も見ていなかった。やがて、瞼がゆっくりと閉じられ、苦しげに喘いでいた喉が、動きを止めた。
ミレニアムサイエンススクールセミナー会計、早瀬ユウカの魂は、自らの務めを果たして神に召されたのだった。
モモイは、膝の上に眠るユウカの顔をじっと見続けた。落ち着きを湛えた目元や、やわらかな髪が、いつの間にか、優しかった妹の顔と重なるのだった。それはまるで、ミレニアム学園で亡くなった妹が、最愛の姉の膝の上でもう一度息を引き取るために、遠い道を帰ってきたかのようであった。
「ミドリ、やさしい、やさしいミドリ!」
モモイは、ユウカの頭を両腕で抱いたまま、声を上げて泣き始めた。悲しみが彼女の髪を掴んで激しく揺さぶり、涙が次々に溢れて来て止めることができなかった。
それは、ゲーム開発部の部室で流すはずだった涙、数年間、歯を食いしばって我慢して来た涙であった。
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モ「っていうのどーよ!」
ミ「なんで私死んでるの!?ユウカと何があったの私??」
2023-10-27 01:13:39 +0000