おうちでぇと攻防戦

佐伯(精神的な呪い)
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平行四辺形の枠組みにも思えた天敵関係から交差した結果、どうにかこうにか恋人同士として褥を共に出来るようになった。
腕の中で読書を続ける鬼灯の後頭部へと鼻先を押し当てて、洗髪剤の馨りを追う。
先程から延々、一瞬も気には留めてくれない。
項を啄んでみるも、痕跡を嫌って緩く首が振られるだけ。
何かしら声を掛けたところで、本の内容を求める方が優先されていることを知る。

「ねーえ、僕のこと好きー?」
「……あー、はい」
「本当?」
「ええ」
「……ほーずき」
「はぁ、そうですね」

上の空を軽く飛ばした、返答具合。
鬱血も衣服に隠れる位置は容認されることくらい把握済み。
白澤は皮膚の薄い箇所を探るように、掌を這わせて肌理を味わう。

「落ち着きがないですね」
「そりゃ、ねぇ。可愛い恋人が、こんなに近くに居るんだもん」

白々しく囁いて、蟀谷を首筋へと擦り付けて懐く。
視界から外れてしまった鋭い眼差しは捉えられない。
辛うじて、眼鏡のフレームだけは割り込んでくる。
視力補正よりも実際のところ、集中していますアピールと思える節がある、ソレ。

「可愛い、ですか」
「んー」
「それが続く限りは、残念ながら無理ですかね」

白澤へと呟き捨てる声量を伴い、然し何処かでは自身へと宛がった雰囲気。
聊か距離を保って眺めると、鬼灯が小説に親指を栞としてから見返してくる。

「いえ、ね……白澤さんって、私に幻想を抱いているでしょう」
「はぁ?抱いてるわけ無いじゃん」
「それはそれで失礼な物言いだと気付いた方がいいですよ」

然程の不愉快さも無かったらしい、充分にあっさりとした言い方を送ってから読書を再開した。
また放っておかれることを察して、回したままの両手へと若干、力を入れる。
筋肉の張っている白い素肌は弾力を持つのに、強張っていない際は少し柔らかい。

「僕は現実の鬼灯しか見ちゃいないんだけど」
「現実を知ったら、幻滅しますよ」
「まだ言うか。平気だってのに」
「どうだか」

可愛げの感じられない高飛車な嘲笑をポーズで引提げられても、残念ながら白澤の方はへっちゃらである。
喧嘩ばかりで重ねた歳月に反して互いの汚点と欠点を差し出すことは、存外に怖いものがあると知った。
羞恥や不甲斐無さとは違う、相手優位であるところの崩落防止。
好い恰好しいと称するならば一瞬で終わるだろう。
それでも結局、目を瞑って光の残像を輪郭とした夜すら嫌いではないのだ。
どうせ次第に明け透けな日々が甘く淡い今に幻滅して現実を五月蠅く手向けるのだと知っているから。

#Hozuki's Coolheadedness Yaoi#Hakutaku/Hoozuki

2023-10-14 12:28:37 +0000