目の前を紅い花が埋めつくしていた。
この時期だけにわかに咲き乱れる幽玄の花は、
取りこぼしてきた多くのものを思いおこさせる。
「何か落ちてくるぞ!『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!』」
『深入りしすぎた。 チーム1は全滅だ』
「αチームの信号はありません」
何度も繰り返しながら、結局手の届かなかった者達と
「最後だな。俺より先に死ぬなよ」
「今だけ持てば……! 今だけ!」
「そうだ。 俺は不死身ではない」
思い出したくもない記憶と
「出来るだけ俺たちが守る」
「安全な場所なんてないってよ。残念だったな」
「新入り、レーションの味には慣れたか?」
「やったのは新入りだ。もう新入りと呼ぶ訳にはいかないな」
それでも忘れたくない、もう俺の中にだけにしかない記憶が、
紅く霞む花の向こうに見えたような気がした。
「…………」
「…ストーム1、帰るぞ!」
後ろから強く肩を掴まれて引かれた。
「よう、大将。花見はいいが、そろそろ帰宅の時間だぜ」
気軽な様子で肩を組まれ
「気に入ったのなら、来年もまた来ましょう……私達と、一緒に」
暖かい腕が背にそえられ、
「……帰りましょう、俺たちの基地に」
苦笑しようとして失敗した俺の手を引いて、一番歳の近い彼が歩き出す。
もう一度だけ背後の紅い花々を振り返って、
彼らに導かれるまま、俺は踵を返して帰途についた。
2023-09-26 05:40:36 +0000