勇者であった少年は、燃えさかる町で呆然としていた。モンスターと化して暴れまわる魔族は消えたが、民衆の暴徒化は止まらない。市民たちが疑心暗鬼で殺しあっている。
「どうしよう。みんなともはぐれてしまった。ポンちゃん……」
「あの人たちは、ニュースで見たと思う。魔族特捜隊かな?」
魔族特捜隊は人々を銃殺して、弱った者たちを拷問にかけだす。幼い子供ですらも容赦しない。
「お前も魔族かよ。吐けよ。苦しいだろう? 痛いだろう? 楽になりたければ、本当のことをいえよ。怪物がっ!」
恐怖で精神を壊しているようだ。目が尋常じゃない。
「アメリカじゃ、内戦が本格化しているらしいじゃねぇか。有色人種が魔族だってさ。白人もいかれているよな!」
「民族ごと魔族扱いで、戦争も起こっているそうだ。世界は終わりだぁ! あひゃひゃひゃ!」
「ところでよ。さっきから、拷問しまくっているんだけど、みんな人間じゃねぇか。何人、殺したら魔族にあたるんだよ!」
「てめぇ、くそガキをレイプしているんじゃねぇよ! てめぇも魔族かよ!」
魔族特捜隊が仲間を撃ち殺す。
魔女狩りをしている民衆へ向かって、機関銃を放つ。
「ねえ。もぅ、止めてよ!」
勇者であった少年が泣きだす。壊れてしまったはずの嫌な記憶がよぎる。
魔族特捜隊の1人が火炎放射器を手にした。本来は魔族を焼きつくす兵器である。逃げてきた人々を、炎で包みこむ。
「ははっ! 魔族は消毒だ!」
「いい加減にしてよ!」
少年は怒鳴った。そして、意識を失った。
まぶたの裏が明るくなっていき、少年は目覚めた。あたりを見渡すと、血肉が道路一面に散らばっていた。
「起きたか?」
「……これか? 魔族特捜隊はうざいからの。俺が皆殺しにしてやったよ。心の壊れた人間どもみんなをな」
「でも……手が血塗れなのは、私の方……」
「俺が殺したんだよ! お前は何も考えるな! とにかく、俺はニャルを探す。お前も一緒に来るか?」
「う、うん……」
2023-08-27 12:19:35 +0000