【幻ロボⅢ】刻限【北の嵐・東の刃】

里仁

企画【illust/108902329
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いざ、勝負【illust/110292316

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蒼生さん【illust/109305857
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▼拙宅の
ハルフ&刃角&ハウンスカル【illust/109027052

▼あらすじ
打ち合って既に二十と余合。
戦況は蒼生の有利にあった。既にハウンスカルは右肩と顔面の装甲が損壊し盾を失陥している。戦闘機動にはなんら支障無いが、その痛々しい傷痕が操縦者の力量差を如実に表していた。
恐らく蒼生がハルフを上回ること2歩半。刃角がどうにか埋めている程度の差。
力量差だけでいえばその程度だが、戦いに向ける意識がよろしくない。積極性に乏しく、蒼生の首を獲ろうという気概に欠ける。魔導騎の損傷はまだ致命的ではないが、早晩ジリ貧だろう。
「時間を稼ごうとしていますね」
些か興を削がれて、蒼生は息を吐く。
援軍を待っているのか、撤退の機を伺っているのか。いずれにせよ勿体ない。これほどの腕を持ちながら臆病に過ぎる。
「それで勝ちの目はありますか?」
息を呑む気配がした。恐らく術者の女の方。勝ち目がないことを自覚している。
だが。
『ありますよ』
ハルフはいともあっさりと言い放った。
『もう四手で勝てます』
「ほう?」
失いかけた興味が首をもたげた。実に淡々とした口調だ。自分や女を鼓舞するための虚勢ではない。
『これは勿論、あなたを惑わすつもりで予告するんですが……あと四合打ち合えば、僕が突くには十分な隙が生まれます。──"その機体"にね」
蒼生の眉がぴくりと動いた。
『丈の合わない機体を使うから、一撃ごとにパフォーマンスが僅かに下がっている。……いえ、技術者として敬意を払えば"壊れていないだけいい機体"、なんでしょうね。あなたはあまりにも強すぎるんだ。そのツケがあと四手で回ります。そこで僕は王手(チェック)をかける』
機装鍛冶の中には武人としても一角の人物がしばしばいる。このハルフという男、どうもそういう手合いらしい。
本人が仄めかす通り予告はハッタリだ。同時に、確実に幾許かの真実を含んでいる。
動かし難い事実として、鬼哭丸は蒼生にとって十全な機体ではない。これまで幾つも量産型機装兵を乗り潰してきた彼のために誂えられた上等な機体ではあるのだが、それでも全力を振るうには物足りない。
そこをなんの予備知識もなしに見抜いてきた相手が言うのだ、恐らく負担が溜まっているのは事実と見てよい。ここまで少々興が乗りすぎたのは確かである。まさか突然腕がもげはすまいが、僅かな骨格の歪みでもこの領域の撃剣では致命打となる。
翻って、対手は未だ手の内の全てを晒していない。先刻まで消極的とみた剣筋は全てが意味合いを変えてくる。

すなわち。この男は、"確実に初見殺しに成り得る札"をまだ隠している。

どんな戦闘術にも必ずある合理だ。無論易々とかかってやる蒼生ではないが、恐らくは針の穴を通すようなその難儀に鬼哭丸がついてこれるか。その限界があと何手か。予告の四合より多いか少ないか、はたまた次の一撃か?……となると、武人であって機装鍛冶ならぬ蒼生には正確な目算がつかない。
「成る程。"戦なれば"、こういう相手もいる。一つ教訓を得ましたね」
死合ならば、一も二もなく次手で決着を期しただろう。己が首を晒したとて先に相手の首を穫れば則ち勝つ。武の道とはそういうものだ。
だが此処は独り立つ決闘の場ではなく、数多敵味方入り乱れる戦場である。背後に弟子がいて、友軍がいる。次の一刀に専心し後は野となれ山となれ、とはいかない。
それに、まったく興醒めなことだが。
「では、仕返しというわけでもありませんが私からも一つ」
『なんです?』
刻限が来てしまった。

「時間を稼いでいたのは、此方もなんですよ」

砦から爆音が轟き、不自然な紫の煙が天へ立ち昇った。
霧隠衆のあげた狼煙である。
「なんだ!? 状況知らせ!」
「火薬庫の方角です!」
「侵入者か、ええいっ」
周囲のサーレットが色めき立つ中、ハルフは構えを崩さなかった──が、ほんの刹那、意識が逸れた。
その間隙を縫って、両者の間に煙幕が炸裂する。
「任は果たしました! 蒼生殿、お早く!」
「承知」
白煙の中に響く氷雨の声に応える。無用な世話ではあったが、無下にすることもあるまい。鬼哭丸が身を翻し、地を蹴った。

…………………………………

煙が晴れた後。そこには既に鬼哭丸の姿は影も形もなかった。
「逃がしたか」
「見逃してくれたって言っておこうよ、そこは謙虚にさ」
忌々しげな刃角の言葉に、ハルフが小さく安堵の息を吐く。
「クララが言ってただろ? 守って、救って、生き残りましょうってさ。あんな怪物、僕らが相手しなきゃ他の兵は撫で斬りだったよ。これで済ませたんだから、勝ちくらいは喜んで譲るさ」
ハルフにとってはそれが偽らざる本心だったが、納得いかないのかむう、と刃角はむくれる。

(──……とはいえ)

課題の残る戦いであったのは確かだ。
予告通り勝負をかけたとして勝算は八つに一つ勝ちを拾えるかどうかといったところ。守る側の戦いとしては全く褒められたものではない。
それに、次立ち会えば確実に敗ける。そんな機会はそもそも無いことをハルフとしては祈るが。
(もう少し、背伸びが要るな。僕にも、キミにも)

なぁ、ハウンスカル。
主に呼びかけられ、傷の奥に灯る騎士の瞳が僅かに揺れた。

※問題ありましたらパラレル&スルー、あるいはご連絡ください……!

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2023-07-29 04:28:35 +0000