【幻ロボⅢ】大洋鋭児の主役ならざる異世界譚【北の嵐・東の刃】

里仁
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企画【illust/108902329
イベント【illust/109743792

▼お借りしました
ルルシェさん【illust/108974075】(※イベントの時間軸ではないです)
ウガツさん&ラセンくん(名前のみ)【illust/108909728

▼拙宅の
エイジ&ウーガオー【illust/109273048

▼あらすじ
結局、エイジをこの世界に呼び出した神様的な何かからの連絡はなかった。
異世界から勇者を召喚したという魔法使いも現れない。
チートもなければヒロインもいない、なんなら金もなければ味方もいない。
どうやら自分が主役補正なき一般人であることを認めねばならず、ただの招かれざる異邦人でしかないことも……認めざるを得ない。

──……まぁ、今に始まったことじゃねえけどさ!

……………………………

「え〜じさぁ……教会(ウチ)来る?」
エイジの此処までの足跡を聞いた"聖女ルルシェ"の第一声は、それだった。
久浦ルルシェ。エイジと同じ転移者である。ルミナリア教なるカエリムの国教に召喚され、国難たる他国侵攻に立ち向かっているらしい。
今回は北のイスグラモー陥落により生じた難民を王都方面へ誘導すべく出陣したのだが、難民を蛮族の追手から守った上で自衛用と称してウーガーを売り込んでいたエイジと遭遇した次第である。
うむ、なんというか。これこそ異世界転移かくあるべしであるなぁとエイジは妙な感心をしてしまった。聞けばこちらに来てネイルアートに魔力を込める能力まで開花したらしい。良い。サポート系とはなかなか渋い路線だ。

翻って、エイジである。
のっけから戦場の只中に放り出され、ぶっつけ本番で乗ったロボットは廉価品のガイコツロボ、チートも何もないのでレバガチャと運任せで生き残り……ここまではルルシェも「おもしれー奴……」で済ませてくれたのだが……出世払いで買い受けた魔導騎一騎で前線を巡り、侵略者を追い返しては避難民に自衛用と称してウーガーを売り込んで回り、当人はといえば彼らからのスズメの涙ほどの謝礼でどうにか食いつないでいた。
「さすがにヤバすぎっしょ」
「自覚はあるよ……」
故郷を焼け出された避難民の懐に余裕などあるはずもなく(なおそれでも売れ行き上々なほどにウーガーは安かった)、謝礼は大方お気持ち程度、それも現物支給がほとんどだ。最近胃に入れたのは如何にも今夜の食事のお裾分けという感じの堅パンや豆のスープばかりで、適応力が信条のエイジも些か辟易しなくもない。ラセンくんのオムライスが恋しい今日この頃である。
「セーギのミカタしようってんなら王国軍なり教会に入ったほうがさ」
「や、別に正義の味方しようってんじゃねーんだが……」
結果として清貧な弱者の救済者になっているかもしれないが、行きがかり上こうなってしまっただけで誓ってエイジはそんな殊勝な人柄ではない。
ただ、当初から国や組織に属することは厳に避けてきたのは確かだ。
「悪ィ、カンベンしといてくれ。俺は国とか組織に下駄を預けるのはどうも向きじゃねえんだわ」
心配してくれてサンキューな、久浦。ただそう言って笑って誤魔化すと、ルルシェは如何にも納得していない様子ではあったが……それ以上追及はしてこなかった。

………………………

今侵略されているこの国も、ずっと被害者側であったわけではあるまい。
どんな組織も、人もそうだ。いつもいつまでも善玉であるものなどない。
だから重要なのは、その上で付き合える"理由"だ。生まれ故郷、思い出の場所、諦められない目的、かけがえのない絆。どうあれ此処で生きていくんだと思える"理由"だ。
大洋鋭児にはそれらがない。
神に遣わされたでも人々に喚ばれたでもない。誰もお呼びじゃあない、余り者のあぶれ者。主役ならざる一般人どころか、一般人にすらなれない異邦人。
なに、いつものことだ。生まれてこの方そんなもの。だからエイジは過大なものを負わない。責任を負わない、罪を負わない、期待を負わない。
だから……

………………………

……だっていうのに。
大洋鋭児はまた戦場に立っている。
眼前に相対するは、"ヴァリャギ"。ボルソルン連合の主力ルーンギガント。今までエイジがどうにかこうにか追っ払っていた小型機とは何もかも違う。ウーガーの倍近い巨体。明らかなる格上。
背に庇うは半壊した魔導騎。カエリム王国軍の主力、サーレット。これさえ、五体満足ならエイジのウーガオーよりだいぶだいぶマシな機体。
『み、味方、か……?』
息も絶え絶え、サーレットの乗り手が問う。答えない。別に味方ではない。
『逃げ、ろ……無茶だ、そんな機体では』
どうせなら心無い言葉の一つくらいかけてくれれば見捨てようって気も起きただろうに。
さぁてどうする大洋鋭児。ケツを捲るのがどう考えても利口だ。どっちの国にも味方する理由は無い。さらに相手は格上、見捨てるのは兵隊。これまでのように力無き民草ですらない。
ここで踏ん張る理由は──……
「……ハ。あほくさ」
誰もお呼びじゃない自分なら。踏み出すのは自分の動機で、手に握るのは自分の力であるべきだ。他でもないエイジ自身が、エイジ自身のチャチな倫と理で、見過ごしてはならないと断じた。
理由は、無い。

「"見過ごす理由が無えから"、戦うんだろうがよッ!!」

※問題ありましたらパラレル&スルー、あるいはご連絡ください……!

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2023-07-17 05:24:43 +0000