夕方6時、暗くなる前に帰りなさいよとお寺の鐘は遠くからかすかに鳴り響く。
夏の夕方、その酉の刻でもまだまだ明るかったが町の家にはぼんやりと灯りが灯り始める。
駄菓子屋の娘は子守りしながらも鐘の音に動かされるように炊事に向かおうと立ち上がり、
近所の子供たちもまた鐘の音を合図にするかのように一人また一人と帰路についていく。
豆腐屋の跡継ぎである僕も鐘の音に操られるかの様に豆腐屋へ帰ることにした。
昼間からお互い話に花が咲いた駄菓子屋の娘も僕もついに別れを交わすといつの間にか
ニチニチソウや草木が風に揺られる音とヒグラシの声だけが響くのみとなった夕闇の薄暗い道へと変わっていた。
「家に帰ろう、また明日。」
イラストのイメージ年代は1938年です。
2023-07-10 20:22:00 +0000