【幻ロボ3】イスグラモーの落日【交流】

堕魅闇666世

第1章以前に陥落しているエリア、
前哨基地イスグラモーでの戦いを想定したお話です。

前線に切り込むディオニダスillust/109227167
これを迎え撃つコロネットillust/109141018
(撃破描写すみません!問題ありましたら訂正いたします)

お名前お借りしました
ポメ親方illust/109112303

問題点や不都合等ございましたら
パラレル・スルー扱いしていただいて構いませんが、
お知らせいただければ訂正させていただきます。



山手から続く城壁伝いの道をゆく荷馬車からは、
戦場の風景が手に取るように俯瞰できた。

膂力に勝るボルソルン連合のルーンギガント、
ヴァリャギの巨体を向こうに回してなお、
防衛軍の魔導騎たちは一歩も退かずイスグラモーを堅守している。

僕やポメ親方が採掘したゼオジストが、彼らに戦う力を
与えているのだと思うと、ハッシュ・ウェルナーの胸は
誇らしい気持ちでいっぱいになる。

鉱夫たちの血と汗の結晶を預かった己の重責を
改めて認識し、手綱を握る手にも一層力が入る。

カエリム王国が正式採用しているサーレットやグントレットは
いわゆる第2世代型。
ゼオジストは騎体の炉心に用いられるのみだが、
近年登場したという第3世代型では、東方の機装兵のように
ゼオジストを組み込んだ『魔剣』をも動力源として、
更なる力を発揮するのだという。

そうなれば、天然ゼオジストの需要はさらに伸びる。
僕たち鉱夫の仕事も今よりもっと忙しくなるだろう。

突如耳をつんざいた甲高い咆哮が、
明日の戦場に想いを馳せるハッシュを現実へと引き戻す。
それが、北の大地に跋扈する竜の声に似ていると気づいた時には、
戦場の後方に黄緑色のゼオジストの光が三つ、瞬いていた。

・・・この距離からでもはっきり視認できるほどの規模。
そこに渦巻く魔力の巨大さに思い至ったハッシュが、
城壁の影に身を隠したその直後。

稲妻が閃いたかと思うほどの轟音と衝撃が、城壁を震撼させた。
恐る恐る目を見開いた少年は、信じ難い光景を目の当たりにする。

ついさっきまで善戦していた魔導騎たちの陣の右翼が、
城壁の一部諸共に薙ぎ倒されて無残な残骸と成り果てている。
一体誰がこれほどの破壊を?
疑問を抱く暇さえなく、その答えが目前に突きつけられる。
掘削機にも似た騒々しい駆動音と共に、
大地を蹴立ててハッシュのもとへ驀進する、灰色の機械竜。
魔導騎と比べてなお圧倒的な規模を誇る巨体が、
真っ直ぐにこちらを見据えている。

「オラ退けぇ!ボサっとしてんじゃねぇぞガキがァ!!」
身動きも取れず慄えるハッシュの背を、荒々しく押す怒声が響く。
迷いなく踏み出す白の魔導騎が、己の倍を越す体躯を誇る
灰色の竜に果敢に挑む。

「コロネット・・・!凄い、本物の第3世代型だ!!」
振るうブロードソードはいかにも無骨な拵えながら、
その刀身に煌めくゼオジストが、それが『魔剣』であることを
如実に物語っていた。

己の窮地を救ってくれた白騎士の、
その勇壮なる戦ぶりに少年は目を奪われた。
灰色の竜が振るう爪、繰り出す蹴撃、そのいずれもが、
一撃で魔導騎すらも容易く粉砕する威力を秘めていることは
疑いないが、どれひとつ、純白の騎体を捉えることはなかった。
最新鋭騎の素晴らしい運動性能と、
それを駆る操手の研ぎ澄まされた操縦技術が、
機竜の猛攻を寄せ付けない。

それどころか。
「待ってたぜぇ!そいつをよォ!!」
追い詰めたコロネットを噛み砕くべく開かれた顎門に、
あろうことか、白い騎士は自ら身を投げ出した。
渾身の刺突は、上顎のさらに上、頭蓋を真っ直ぐに捉えている。

・・・しかし。
「コイツ・・・俺の剣を」
魔剣を噛み砕く竜の牙。
刃を飲み下すと共に、竜の首を走る光が明滅するのを
見てとった騎士と少年は、時を同じくして理解を得る。

「逃げろ馬鹿野郎!コイツの狙いはテメェの荷物だ!!」
弾かれたように手綱を振るうハッシュだが、
恐慌に陥った馬は言うことを聞いてくれない。
もたつくその背後に、城壁さえも圧砕しそうな
ギロチンめいた巨大な鋏が間近に迫る。

「チッ・・・ウスノロがよぉ」
背後、すぐ近く。幾重にも編まれた
鋼鉄がへし折れる鈍い音がする。
恐る恐る振り返り、愕然とした。

「・・・行けよ。見せモンじゃねぇんだぞ」
構えた大楯ごと巨大な刃に挟まれたコロネットが、
それでもなお諦めることなく抵抗を続けている。
ミシミシとひしゃげていく騎体をも顧みず、
背に負うていたボウガンを構えて、不安定な姿勢から
ボルトを放つ。

狙うは首元。ゼオジストの輝きを放つ
甲殻の隙間に打ち込まれた一撃に竜が悶える。
怒り狂う怪物が、壁と言わず、地と言わず、鋏を叩きつけて
愚かな死に損ないを粉砕せんと力任せに暴れまくる。

それでもコロネットは壊れない。
設計者ハルフ・ブレアクアが心血を注いだ
堅牢な胸郭は、無辜の民を救わんとする戦士の矜持を
頑なに守り続けた。

「全部捨てていい!テメェだけでも逃げろ!!
俺様を無駄死にさせやがったら、ブッ殺してやるからなァ!!」
その言葉を、ハッシュは聞き届けないわけにはいかなかった。
長年苦楽を共にした愛馬も、仲間と共に採掘したゼオジスト鉱石も、
そして、自分のために命をかけて戦ってくれた
名も知らぬ勇者をも全て見捨てて、ハッシュは全力で逃げ出した。

やがて聞こえてきた鈍い破断音も、続く悲痛な嘶きも、
鉱石が噛み砕かれる騒々しい破砕音も、
全て聞こえないふりをしていても。

それでも涙が止まらなかった。

初めて見た戦場の残酷に震え、
牙を剥く竜の眼光に慄え、
それでもなお消せない熱い憧憬を胸に刻んで。

僕もいつか、あの人のように誰かのために戦いたい。
それがきっと、僕が生かされた意味だから。

自らが進むべき道をはっきりと見据えて、少年は全力で駆けた。

#【幻ロボ3】#幻ロボ3交流

2023-06-23 18:21:49 +0000