味方玄さんのお能を初めてみたのはまだ平成の夏の盛り、天河社での『三輪』の奉納だった。
山深い吉野にある天川村への道すがら、便乗させて頂いたご社中のバスで隣席になった女性が、短歌を嗜むこと、西語の勉強を始めたことを控えめに話してくれたのを覚えている。他にも、渋い絣を嫌味なく着こなした老婦人の格好よさにひそかに感嘆のため息をついたものだった。
あれから味方さんの舞台に足を運ぶたび、これ見よがしに背景知識や批評をまくし立てる人も、こちらが少し若い女一人であるからと押しのけたり押しつけたりする人もなく、誰もが他に目だたぬ気を配りつつ思い思いに舞台を楽しんでいるように感じた。
とくに年2回のテアトルノウでは、構成や詞章はそのままに、現代人が共感しやすいようにフリの細部や間を少し変えていて、小むずかしいこと抜きに物語の世界にするっと入りこめる。
あぁ、むかしの人もこんな風にお能を楽しんでいたんじゃないかなぁ、なんて思ったり…
あの日の衣装は違ったけれど、絵は蔦柄の長絹のイメージで。
2023-05-31 07:25:24 +0000