「ふううう……ッ!」
ナオミが気合いを込める声が響き、その全身を覆った巨大な筋肉群はメリメリと摩擦音を立てながら“最後の仕上げ”に入ろうとしていた。ナオミの倍以上の巨躯を誇っていたレッドファングの肉体は、今やその大半をナオミの筋肉によって押しつぶされ、ボール状に圧縮されつつあった。
レッドファングも決して無抵抗のままつぶされているわけではなかった。その証拠に数秒おきにビクン、ビクンとその肉体は膨張し、内側からナオミの筋肉を押し戻そうと試みているのだが、そのたびに全方位から加わってくるナオミの筋力に負けてさらにその体積を縮められてしまうのだった。
今やレッドファングの全身は巨大な筋肉の塊となったナオミの両腕・両脚にホールドされ、さらに大胸筋からも上方から圧迫され、さながら筋肉の底なし沼へと沈もうとしているかのようだった。ナオミの筋肉群がグニュグニュとうごめき隆起するたびに、ブチブチ、ベキベキと破砕音が響き、レッドファングの外から見える部分は確実に小さくなっていった。
「ナ、ナオミ博士の筋肉が…レッドファングを“喰って”る……!!」
この恐るべき光景をキャットウォーク上から見守っていた職員達の一人がうめき声をもらした。ナオミの筋肉がレッドファングを押しつぶし、今や飲み込まんとしているその様は、まさに“捕食”と言うに相応しいものであり、ある種の深海魚が自分よりも巨大な魚を飲み込んでしまう姿を連想させた。
「ぶげげ…うぐぅぅ…」
上方から加わるナオミの腕の筋肉の圧力によってじわじわと陥没し始めたレッドファングの頭部からうめき声が漏れ出る。特殊部隊さえ易々と蹴散らしてきた無敵の怪物としての自負を持つ彼にとって、こんな事はあろうはずがなかった。たかが生身の人間、それも女の力に完全敗北した上で全身を押しつぶされているという現実を受け入れられずに絶叫を上げようとするが、もはやその口からは弱々しいうめき声しか出てこない。今やレッドファングの全身で最も頑丈であった頭蓋骨もその大半を粉砕され、頭部丸ごと圧縮されようとしているからだ。
バカな、そんなバカな、これは何かの間違いだ…!押し砕かれ、つぶされていく自らの肉体のうちで、レッドファングは声にならない悲鳴を上げ続けたが、やがてそれも彼自身の意識と共に薄れて消えていった。
全てが終わり、ナオミがその巨大な筋肉に覆われた身体を起こして立ち上がると、大胸筋の谷間に挟まっていたテニスボールほどの肉塊がドチャリ、と床に落下した。それは言うまでもない、有害オブジェクト・レッドファングの成れの果てだった。
脅威的な怪力を見せつけ、堂々と隆起しうごめき続けているナオミの筋肉群を、職員達が恐々と見守っていた。その表情からは安堵が半分、もう半分は間違いなく畏怖、いや恐怖といってもいい感情を読み取ることができた。
人間でありながら、怪物を超える怪物となったスーパーボディビルダー・ナオミ。この日こそが、その異形の筋肉伝説の幕開けであった。
■本編novel/19349283 の挿絵として描いた絵ですがちょっと本編の描写と食い違うところもあるので、せっかくなのでクライマックスの一部を軽く書き直してキャプションにしてみました。別バージョンということでお楽しみくださいw
2023-05-14 00:27:48 +0000