町ジャントラで食おうぜ!!

みなぎ竜次
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マーヤ「…というわけで、食堂ベルジャントラのA定食サービスは一時停止する!」
A、B、C「えええ~~~~~~~っ!?」
ここは「食堂ベルジャントラ」。ランチ時間が終わり、ディナー時間までの準備時間にマーヤはこう宣言したのでした。
それに驚いたのは、常連客を装う王国政府残党のズッコケ3人組です。

A「それはねーでしょう。せっかく姫様のA定食が軌道に乗って、ウワサで日本人客も増えてきたってのに…」
マ「それは判ってるの。だから一時休止だって言ってるでしょ。あんたらも知らない?あの番組」
B「ああ、『町東亜で食おうぜ』」
マ「そう。最近東アジア料理が脚光を浴びてきて、20~30代の人にはブームになってる。でも大部分の人は独特なスパイスや材料で頓挫しちゃうのね。ここであたしは考えた」
C「何でしょうかしら」
マ「料理を作り変えるのよ。日本人の舌にあうジャントラ料理を生み出すの。たとえば『フギシサー・クリジュイブナ』」
A「我が国のソウルフードですな。ニセフシチョウの引き締まった肉に、オキマリビールの苦みとツブバクダンカラシのすっきりした辛みが効いて…」
マ「でもその材料は日本じゃ揃わない。そこで、『シャモ肉のビール煮・わさび添え』にするのよ」
A「そんなあ!全然味わいが違う料理になっちまう!」
マ「そこが料理人の工夫よ。いま日本で食べられる中華は大人気だけど、みんな日本に料理を紹介したシェフに大改造を施されて、原型をとどめてない。でも、その日本人向け中華のレシピは、日本に移民した沢山の料理人を裕福にしてくれた」
C「プライドか生活か、ってところですわね」
マ「プライドが傷つくほどのものじゃないわよ。美味しいけどうちの料理じゃない、っていう違いね」
C「そんな料理の生みの親になれば、定住して料理人としてやっていける…」
マ「そういうこと。流行に乗れば日本人は飛びつくわ」
A「そうか!そいつが新しい『おふくろの味』になればいいんだ!」
C「姫様!さすがですわよ!」
マ「んーふふ、おだてても何も出ないわよ!」
さすがに舞い上がるマーヤではあったのですが…。

B「なるほど。それでその新しい料理を、新しい『おふくろの味』を誰が作るんですか」
ちょっとの間、盛り上がった空気は一気に冷めてしまいました。
マ「あ…あたしよ。何か文句ある?」
B「姫様。確かにお小さい頃から召し上がった家庭料理は売り物になる出来でした。でも姫にジャントラの味は再現できますか」
マ「…」
B「姫。お母上すら宮殿の料理を再現なさることはおできではなかった。実物を知らぬ者にまがい物が作れますか」
マ「…な…なによ何よ!あたしだってこれまでの実績がある!やれるわよ!」
B「ならばいいのです。お作りください」
マ「あ、あたしだって判るわよ。ジャントラ料理なんて聞いたこともない人たちに料理を作るわ。それで美味しいっていったら勝ち。そーいうことでいいわね!帰っていいわ!」
そう言うが早いか、マーヤはエプロンを脱いでそうそうに学校に戻ってしまいました。

日曜日のこと。
マーヤはかねてからこの子たちを家に呼ぼう、と思っていたふたりを店に連れてきました。
黄鳳命ちゃんと鍔芽ちゃん。いずれも並外れた健啖家です。
彼女らを呼んだのはほかでもない、友人のエステルちゃん、ソニアちゃんを抱えるrockさんの話を聞いたからでした。
彼は常人離れしたふたりの食べっぷりに悲鳴を上げたそうですが、マーヤはそれを聞いて発奮したのでした。

美味しくなければ、そんなに食べるわけがない。健啖家とはグルメの証しだ。

鍔芽「わはー、美味しそう!これだったら50トンはいけるな」
鳳命「マーヤちゃん、いいの?あたしたちマジでハンパじゃないから、これくらい朝飯前だよ」
マ「いいのいいの。思う存分食べちゃって。そのために来てもらったんだから…💛」

30分後。ほんとうにコメ一粒残さず、ふたりは重いお腹をさすりつつ立ち上がりました。
鳳「あー、もうちょっとあったらなぁ。ともかくご馳走さま、マーヤちゃん」
マ「よく食べてくれたわ。お味はどうだった、ふたりとも?」
鍔「ご馳走さまあ。うーん、あんまり判んなかったかなあ。辛いとか甘いとかって気にならなかったから…」
マ「え?」
鳳「ふつうの味だった。だからたくさんイケたのかもね。辛すぎたりしょっぱすぎたりしたら気になるからね」
マ「…ねえ、おいしかった?それだけ聞きたいの!」
鍔「ごめんね。ふつう。有難う」
鳳「ありがとね」

ふたりが車道の隅に隠れて見えなくなってしまうまで、マーヤはそれを目で追っていました。
マ「…ちくしょー」
Bが、そんな彼女の肩に手を置きました。
B「おあきらめください。まずくも美味しくもないはじめての味なんて、あり得るわけもないんです」
マ「…」
B「あるなら、そいつは変わり映えしないいつもの味でしかないんです。わたしたちが食べていた祖国の味は、そんなじゃなかった」
マ「判ってるわよ。あたし、日本人だもの。どうしたらジャントラの味かわかんないから、自分の味でごまかしてたんだ」
B「姫は、殿下ゆずりの美味しい日本料理を作ってください。…それをみんな楽しみにしてるんですから」
マ「…」
B「あー、姫の味噌汁が飲みたいなあ!腹減ってきましたよ」
マ「調子に乗るんじゃねーや、家来!」
マーヤに向う脛を蹴られたBは、しばらくその辺を飛び跳ねていました。

マーヤのA定食は、今日も10食限定でお店に出ています。

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2023-04-19 11:39:06 +0000