「ダメ、やっぱりこの船大きすぎるよ・・・!
戦力を分散しても防ぎきれないって!!」
両腕のヘビーマシンガンにサブアームで放つロケットランチャー、
肩部ザインランチャーとマイクロミサイル。
専用のフィデス改に満載された武装群を器用に駆使して
多数の標的を次々に撃破するルカナル・ハーヴェンの活躍は
コンクエスタの称号に恥じぬ水際だったものだが、
それでも寄せ手の全てを退けるには至らない。
「オーーーッホッホッホ!この程度でギブアップですの??
私、そんな軟弱者に負けた覚えはなくってよ??」
苦しい迎撃戦に疲弊した戦士たちの魂を鼓舞する
激しいビートが回線をジャックする。
それと同時に、広域に展開した真紅のスレイヴ群が自在に躍り、
芸術的なまでの完璧な編隊機動で押し寄せる敵を殲滅していく。
ステラデウスが単騎で他のリヴェルザインの防衛網の穴を補い、
膨大な火力でエクステラの攻勢を跳ね除ける。
「やっと来やがったか。お嬢様は流石の重役出勤だなぁ!」
「お色直しは念入りにしたい主義ですの。
私に相応しい舞台が、ようやく整ったようですわね?
さぁ、トばしていきますわよ!ソアレさん、ついて来られるかしら?」
勝ち気な流し目に応え、ソアレ・ワーレクィエが破顔する。
「そういうことなら、リーゼ。私の妹も力になれるわよ」
スコールの言葉と共に、シャイニィも輪に加わる。
「任せて、姉さん!さぁ、みんなで盛り上がっていきますよっ!!」
3人の歌姫が繰り広げるライブパフォーマンスが
前線を支える戦士たちの魂に熱い力を注ぎこむ。
強力な援護射撃は、周辺宙域にまで及んでいた。
「いいじゃねぇか!ムラクモのエンジンもご機嫌だぜ!!」
爽快なロックに乗って跳ね踊るムラクモが展開する
ベクターエッジが敵陣をズタズタに引き裂く。
すかさず飛び込むブレイジングホースのレーザーランスが
脆弱化した編隊を真正面から突き崩す。
「うん、リーゼもどうやら調子が出てきたみたいね。
・・・あれを見せたのは正解だったかな」
───
「だってのにさぁ、あの唐変木!
私の前で、見せびらかすみたいにファンから
もらったチョコ並べちゃってさぁー!!
私のドキドキはなんだったんだってのーーー!!」
決戦を間近に控えたフォルトゥーナの居住区の一室。
盛り上がるマリーをよそに、部屋の主人である
アルシュリーゼはどこか浮かない表情だった。
「・・・ちょっと、リーゼ?そこは、あんたならこう、
『有象無象のチョコなんて霞むような超一流の逸品で、
わからせて差し上げるしかありませんわねーーーッ!!』
って感じで乗ってくれそうなもんなんだけど・・・どうしたの?」
「いえ・・・どど、どうってことはありませんわよ!?
もっとも?私のスケールのデカさの前では、
森羅万象悉く、ミジンコ同然の些事にすぎませんけど!?
オホ、オホホホホホーーーッ!!」
ワザとらしく高笑いする視線が泳いでいる。
・・・その目が、ベッドサイドに飾られた小さなガラスケースで
ぴたりと止まり、装われた勝ち気な笑みに綻びが生まれる。
大切に仕舞われているのは、美しい金のレース加工が施された
上質紙で丁寧に折られた折り鶴だ。
「・・・ジュンくんと何かあったの??」
その一言に、アルシュリーゼの表情が目に見えて沈み込む。
・・・分かりやすすぎるほどに図星だ。
しかし、ここからもう一歩、踏み込んでもいいものか。
「・・・私は、あの人の役に立てると思っていました。
彼の力になれば、ミカさんの思いに応えられると。
・・・でも、それは私の思い上がりでしたわ。
私は、彼らのことなど理解しないまま、無遠慮に2人の世界に
踏み込んだ部外者でしかなかった。
それに気づいただけのことですわ」
・・・思ったよりも重症だ。
マリーが、アルシュリーゼと友人づきあいを始めて気づいたのは
彼女の高慢な態度の裏に危うい自己不信があったことだ。
レガシーチルドレンである彼女は、実の両親を知らない。
自分は、捨てられた子供だという認識が、自己認識の根底にある。
だから、誰かに必要とされたい。認められたい。
そのために、自分の本性を偽るようにブランバルト家の
令嬢としての振る舞いを必死で身につけてきた。
自分には存在価値があると、殊更に強調するように
自信過剰な言葉で自らを誇示してきた。
そんな自分の本当の姿を晒せる相手だと思っていた
ジュリアスとの関係に亀裂が入ったことが、
彼女の心の脆い部分を傷つけてしまったのだろう。
「あのさ、リーゼ。フォルトゥーナの内部調査で、
面白いものを見つけたんだ。
オルブライト・アーカイブの補完データ。
きっと、リーゼの役にも立つと思うから・・・見てみよ?」
反応を待つことなく、セットしたメディアをモニターに再生する。
「・・・リーゼ、まず初めに謝らせてほしい。
両親として何一つできないまま、お前をたった1人で送り出すことを」
俯いていたリーゼの顔が上がる。
そこに映るまだ若い男女には、確かに自分に通じる面影があった。
両親と覚しい2人がリーゼに語ったのは、思いがけない過去だった。
人類の故郷、地球にあるとき飛来した隕石から
地表へ降り注いだ未知の物質、ザイン結晶体は、
自らの意志を持つかの如く特定の人物に融合した。
ザイン結晶を体に宿した人々は人類の枠を超えた力を発現したが、
それは選ばれなかった大多数の人類にとって未知の脅威だった。
幼くして結晶を宿したリーゼを人々の敵意から守るため、
両親はレガシーチルドレン計画に望みを託す。
ザイン結晶体を産出する惑星の探索に赴く移民船に、
結晶体を宿した子供たちを乗せて送り出すという壮大な計画に。
ザイン結晶の存在が当たり前の世界で、
娘が差別されることなく生きていけるように。
「何年先になるかわからないけど・・・あんたが目を覚ましたら。
『LSS』って会社と、『スコール』って女性を頼りなさい。
きっと貴方の力になってくれるって・・・約束してくれたから」
その言葉に、思わず隣のマリーを見つめる。
「私も、びっくりした。
ご先祖様から代々受け継がれていた
データベースをひっくり返したら、
確かにあったんだ、リーゼって子の情報が。
・・・ごめんね、気づくのが遅くなって。
今更かもしれないけどさ・・・おかえりなさい、リーゼ。
あんたが今苦しいなら、私に何か、できることはないかな」
マリーの胸の中でうずくまったリーゼが、震える声で呟く。
「・・・これからも、友達でいて」
虚飾を捨てた剥き出しの心からの言葉に、
マリーはため息混じりに頷く。
「お安い御用ね。
んじゃ、友達としてアドバイスさせてもらうけど」
震えるリーゼの肩を支えて、真っ直ぐに互いの碧眼を見つめ合う。
「諦めんな!もう一回ぶつかってこい!好きなんだろ?
大丈夫。あんたはみんなから、ちゃんと愛されてるんだから」
2023-04-02 08:11:28 +0000