「えー!?また出張デスカー?!」
担当ウマ娘であるエルコンドルパサーが叫ぶ。
「ごめん。学園側から依頼が来ちゃってさ」
彼女と大切な3年を駆け抜け、その間に素晴らしい成績を残すことが出来た。
それ以降、益々注目度が上がり、毎日のように取材があり、CMのオファーも来ている。
忙しい日々でもトレーニングは欠かさず行っている彼女は先日もレースで一着を取ることが出来た。
「……今回はドコ行くんデス?」
「地方のレース場であちらのトレーナーさんに指導を頼まれたんだ。3日ほどだからすぐ帰ってくるよ」
彼女の輝かしい成績のおかげか、自分の方にも声がかかるようになった。
『トレーニング方法を教えてほしい』
『ウマ娘とのコミュニケーションをもっと上手く取れるようになりたい』
こんな依頼が舞い込むようになり、地方に行くことも増えた。
「その間のトレーニングメニューは考えておいたからよろしく。みんなとの併走もお願いしといたから楽しみながら練習してほしい」
よく一緒にいる娘たちに併走をお願いしたら快諾してくれたので中日にそのメニューを組み込んでおいた。
「分かったデース。その代わりにお土産たくさん持ってこないと、エルはヘソを曲げますから!」
「分かった。楽しみにしてて」
そう伝えて今日のトレーニングはお開きになった。
「いやあ、本当に勉強になりました。今回学んだことをトレーニングに活かしていきたいと思います」
「こちらこそ、学ばさせて頂きました。それでは失礼します」
地方での指導最終日。
あちらのトレーナーからお褒めの言葉をもらいながら別れた。
地方ならではのやり方を見て、これはトレーニングに活かせるなと新たなメニューを思いつくことが出来た。
新幹線に乗り学園に戻ると夕方になっていた。
お土産の入った紙袋を提げトレーナー室に入ると先客がいた。
「ここにいたんだ。LANEの返信無かったからどうしたのかと思ったよ」
制服姿の彼女が窓際に立っていた。
新幹線で向かっている途中、LANEを何度か送ったが既読にすらならなかったので少し心配だった。
「エル?」
話しかけても反応がないので不安になりながら近づく。
肩に触れようとした時、急に彼女はこちらに振り向く。
その顔にはいつものマスクがなかった。
「No me dejes.」
「Siempre pienso sólo en ti.」
「Pensé que iba a morir sólo porque no estabas aquí.」
「Esta cara también sólo se te muestra a ti.」
「Mírame sólo a mí.」
「No me odies.」
「Me encanta.」
スペイン語なので何を言っているか分からないが、表情や言い方から不満を吐露しているように見えた。
彼女は言い終わるとマスクを着け、こちらの手に持っていた紙袋を強奪する。
「たくさんのお土産ありがとうデース!マンボも好きそうなものまで!じゃ、トレーナさんチャオ~!」
「まてまてまて」
彼女はいつもの調子に戻りスキップしながら部屋を出ていこうとするので静止させる。
「ごめんさっきなんて言ってたの?」
浴びせるように言ってきたスペイン語はどういう意味なのか聞いた。
「あれは文句デース!トレーナーさんがいない間、エルはコツコツ頑張ってたのにねぎらいの言葉一つなかったデース!」
確かにお土産は買ってきたが「お疲れ様」の一言も伝えていなかった。
「ごめん謝る」
「じゃあトレーナーさん、エルが今からいう言葉、言ってくださいね」
そう言って彼女はスペイン語で話し始める。
「それはどういう意味?」
「これは『これからもキミの走りが見たい」って意味デース!」
それは良い言葉だなと思った。
今までも彼女の走りを見てきたし、これからも見ていきたいと思っていたところだ。
「それじゃあトレーナーさんドーゾ!」
彼女の合図に合わせて声を出す。
「yo te quiero a ti.」
両手の親指を立て「ブエノ~!」と言うエルコンドルパサーの表情はとてもにこやかだった。
2023-01-18 12:00:03 +0000