悲鳴、爆発音、唸り声——恐ろしい音に混じって、どこかから声が聞こえてきた。
それはまるで母の胎から聞いた鼓動の様な、朝焼けの小波のような——人心へ寄り添うように、その声は人々の心と体へ染み入ってきた。
声を聴いた者たちは己を奮い立たせ魔物に立ち向かい、傷付いた人々へ手を伸ばし、あるいは守るべき存在を探し始めた。
「あと少しなんだ」「共に生き残ろう」「希望は潰えていない」
声——『歌声』は、消え掛けた心の灯火に、まるで小さなマッチの火を灯す様な歌声だった。
その声色に、聞き覚えは無かった。だが、その言葉に思わず手を止めてしまった。
(懐かしい、その言葉を話せるひとがまだいるとは思わなかった)
歌声に混じった旧い言葉は、永遠にまで続く命を持つ竜種でも使える者はそう多く無い。長い刻を存在していた彼女でさえも、聞いたのはもう随分昔だった。
歌声の元へと目をやると、巨大な白い竜が大聖堂をまるで赤子を抱く様に鎮座し、優しい歌声を王都へ響き渡らせていた。
名は知らない、顔も知らない、その正体も知らない。だが、その胸に抱く想いは同じなのだと、フィアンマは直感した。
『立て』 『走れ』 『進め』
慈悲と鼓舞の喊声。誇りある竜の言葉は、大木の葉をさざめき立たせ、炊き出しの広場にも届いている。
『白亜の友よ、感謝する』『貴公も、どうか無事で』『腹を空かせたのなら、此処に来なさい。貴公を歓迎する』
「…合ってるかしらね?」
なんせ聞くのも使うのも久しぶりだ、文法が間違っている可能性もある。だが、きっと届いているはず。
歌う同胞へ心からの歌声を送って、フィアンマは空になってしまった鍋に、再び具材を投入するのだった。
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…え?何叫んだって…え!?う、歌ったのよ!?私ってそんな音痴!?
こちら【illust/103794966】の非公式イベントにちらっとお邪魔させていただきます。
同じ古竜として応援したかった…!
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リズムが変なのはご愛嬌なギルマス【illust/101966263】
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問題等ございましたらお申し付けください。
2022-12-24 15:06:15 +0000