【PFSOZ】涙のホットケーキ【インターバル】

MUTTON

甘い香りが漂う魔導箒部、部室。
そこには山積になった出来たてのホットケーキと温かい紅茶。そして部員が会しており賑やかな雰囲気を醸し出していた。

「お〜今日も美味そうだなぁ〜」
「えへへ、そうでしょうとも!いっぱい食べてくださいね!」
「なーんて。普通のフリしちゃってさぁ、元気ないんだろ。しっぽが下がってるぜ?」

ふさふさとアセムのしっぽがキニスのしっぽを撫でる。
笑顔は取り繕っていても、同じくしっぽの生えたアセムにはすぐに心中を勘づかれてしまったようだ。

「えへ…アセムさんにはばれちゃいましたね…。」
「オレの観察眼を舐めるなっての!で、どうしたよ?やっぱりレースのことか?」
「はい…。 皆さんにたくさん協力してもらって、自分も頑張って、でも先輩たちはとても速いですし、レース初参加の自分なんて負けてしまう覚悟もしていたのに、なのに、やっぱり負けてしまって…」

グッ、と歯を噛み締める。先に立たない言葉を終わった後に並べても仕方がないのに。

「ぼく、すごく悔しいんですぅ…。」

ぽたぽた。堪えきれなかった涙がホットケーキに落ちる。大好きなホットケーキを目の前に涙するのは生まれて初めてのことだった。

「おーおー、ホットケーキがしょっぱくなるぜ?泣くな泣くな。男の子だろ〜?」
アセムがキニスの頬を親指で拭う。ふに…とアセムの手の魅力的な柔らかさと温かさが伝わる。

「はぃぃ…。」

ずびずびと鼻をすする。一度決壊してしまった涙腺は、返事に反して簡単には塞がってはくれなかった。自分の情けなさとアセムの優しさに、また涙が溢れてしまいそうになる。

隣で紅茶を手に取ったのは、やれやれといった表情の魔導箒部部長、アリザ。薫る琥珀色を少し味わい、涙で濡れた猫又の顔を見た。

「いいんじゃないかしら、それはそれで。これからもっと速くなればいいのよ。悔しさは涙ごと食らい尽くして、自分のバネにしてしまえばいいわ。」

アリザは涙の染み込んだホットケーキをほら、と目線で示し、美味しかったわよ?と一言。

「そうよ。今までスピードを求めてたわけでもないあんたの初参加のレースがバラリア・レースで、しかも完走したなんて、それだけでも立派なんだから。」

ちょっとは自信持ちなさい。とティーカップを傾けていたベロニカが口にする。

「にゃ…」

紅茶やホットケーキよりもあたたかい仲間たちの言葉が胸に染み渡り、連動しているのだろうか、じわりと目元が熱くなる。食いしばった歯が、震える。もう我慢は出来なかった。

「うにゃぁ〜〜〜…」

ぼろぼろと涙がこぼれ、目の前で冷めかけているホットケーキにまた染み込んでいく。そのことを気にかける余裕も今のキニスにはなかった。
やれやれ、といった表情でアリザが口を開いた。

「全力、出し切ったんでしょう?バラリア・レース。それとも悔いが残る飛行でもしたのかしら?」

その一言に心が凪いでいく。そうだ、自分は精一杯飛んだ。確かに今までで一番、風を感じていた。

「いいえ!すごくたのしかったですにゃ!…みなさんのおかげです、ありがとうございました!」

思わずほころぶ濡れた顔。悔しさが染み込んだホットケーキは、やっぱり少ししょっぱかった。

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◆バラリア・レース完走まで描ききれませんでしたが、皆さんが様々な場面を描いて下さり、一緒にゴールまで連れて行ってもらったような気持ちです。本当にありがとうございました!

◆お借りしました。
アセムさん【illust/102281395
ベロニカさん【illust/102082039
アリザさん【illust/102074358

◆バラリア・レース頑張ったで賞 キニス【illust/102606961

この作品は皆さんの思考や行動を縛るものではありません。ご都合の悪い点があればパラレル、スルー扱いとして頂くか、ご一報頂ければ幸いです。

(最終更新:2022/12/13)

#pixivファンタジアSOZ#アラディア院#【アラディア魔導箒部】#もふり隊#バラリア・レース

2022-12-12 15:22:05 +0000