今回は完全な自キャラファンタジアです。
ギルドタグは付けさせていただいておりますが
ギルドの動向とは全く無関係なお話です。
時系列的にはたぶん、聖夏祭が始まってすぐくらい。
他の諸々のイベントよりも前にこのお話があったと
認識していただければ幸いです。
聖夏祭に沸く王都バラルの地下、
昼食を注文した
ディオネッタillust/101987321
illust/103492112
が
ヨナタンillust/101998566
と遭遇した時、二人の運命は大きく動きだします。
※
祭りの賑わいを背に受けて、屋台の運営を仲間に任せた
ヨナタンは注文の品を届けるために指定された地点を目指す。
「こんな広い地下水路がバラルの地下にあったなんて・・・」
標的を追ううちに、地下にたどり着いていたディオネッタ。
対象を仕留めたまではよかったが、随分と消耗してしまった。
以前の駅弁が好評だったデリバリーサービスを利用して、
昼食を注文する。
かくして、ディオネッタが記憶を失ったその場所で、
両者は奇しくも再会を果たすこととなる。
少年が抱える弁柄色の御神体を目にした瞬間、
ディオネッタの心臓が一際強く撥ねる。
見間違うはずもない。
彼女の存在を規定した怨敵の姿。
蘇る記憶に呼応する様に、額のサキノハカ結晶が
第3の頭角のように急激に伸長する。
・・・なぜ、今まで忘れていられたのだろう。
これほどまでに憎んだ己の仇、同胞の仇を。
角を伐られ、腕を落とされ、
臓腑も骨も抜き取られた。
それが、敗北するということだと覚悟はしていた。
後悔はなかった。
私は全力で戦った。
同胞を守るために、かの弁柄色の魁獣に勇敢に立ち向かった。
しかし、力は及ばなかった。
ガンゼオンは自然の摂理を理解した狩猟者だった。
彼を崇拝する村人たちが生活していくのに必要となる以上の
獲物を狩ることはなかったし、幼い竜には決して手をつけなかった。
その堂々たる戦ぶりたるや。
年に一度の挑戦を受ける竜たちもまた、
強敵に命を賭して挑む選りすぐりの勇者たちを
氏族の誇りとして称えたものだった。
一切後ろめたいことなどない、正々堂々たる対決、
その末に敗れ、彼らの糧となるのであれば・・・
それはむしろ、誉れというべき散り際であろう。
「本当に、それで満足なのかい?
要するに安定して勝てる相手だと舐めてかかられて、
食い物にされているだけじゃないか」
死にゆく竜の末期の意識に鋭く刺さる何者かの声。
「あくまでも、勝つために戦っていたんだろう?
一族の仲間をたくさん殺してきた仇敵を、
倒したかったんじゃないのかい?
・・・それが可能になる力を、君に与えてあげよう」
そのためにはまず、敵を本気で憎むことだと、その男は嘯いた。
新たな手足を、強靭なる甲鉄を、重力を制する魔術機関を
体に捩じ込まれる際限のない責め苦。
囁き続けられる怨敵への憎しみの言葉。
意識はいつしかかの魁獣への憎しみに染め上げられ、
果てしない憎悪と復讐への執念が、
やがてサキノハカを発症させるに至る。
そうして生まれ変わったディオネッタは、ガンゼオンを討つために
彼を守り神として崇拝する集落へと送り込まれた。
魁獣の存在力を支える信奉者を殺戮することが、
すなわち魁獣の力を削ぐことに直結するからだった。
その試みは図に当たり、ディオネッタはガンゼオンを
追い詰めることに成功した。
しかし、とどめを刺す寸前でその姿を見失う。
ガンゼオンを救ったのが・・・目の前の少年であった。
彼を追ってディオネッタもまた王都へ辿り着くが、
彼女もまた深手を追っていた。
やがて王都の地下で力尽き・・・そこで記憶を失った。
殺さねば。今度こそ。
かの魁獣を崇拝し、その存在を支えた集落の最後の生き残りが
目の前の少年であるならば、彼を殺すことで
私の復讐はようやく完結する。
そのために・・・本当の己を解き放つ。
仮初の人型を捨て、人造騎竜の本来の姿へ。
貯水槽の天井にも届きそうなほどの
巨体へと変幻したディオネッタが、
ガンゼオンに・・・その身を抱えるヨナタンに牙を剥く。
白骨を削り出した禍々しい頭殻は、
ヨナタンの記憶にもはっきりと残っていた。
忘れられるはずもない。
自分が生まれ育った村を襲い、焼き払った憎き仇。
「こんなところに潜んでいたなんて」
ディオネッタにとってガンゼオンが一族の仇であったように。
ヨナタンにとってもディオネッタは故郷を滅ぼした怨敵であった。
「こんな怪物を、ここから出すわけにはいかない。
ガンゼオン、力を貸して」
「待て。お前ひとりの力で俺様の全力を解放するのは・・・」
あまりにも、負担が大きすぎる。
「僕がやらなきゃいけないんだ!ガンゼオン!!」
それについては・・・ガンゼオンにも、異論はなかった。
「どうなったって知らねェぞ・・・!!」
ヨナタンの腕の中の御神体が、急激に膨張する。
はち切れんばかりの隆々たる筋骨が張り詰め、
牙を剥き出した修羅の顔貌が浮かび上がる。
目前の竜に並び立つ巨体となった
ガンゼオンが、ディオネッタに対峙する。
「あの時の続きと行こうじゃねぇか。
・・・今度こそ、完璧に叩き潰す」
2022-12-10 08:17:04 +0000