森薫先生の乙嫁語り14巻をご覧になった方は既にご存じであろう、ジャハン・ビケさんのカルカシュカ。
アハルテケ種(Akhal-Teke)という設定で、最近特に金色の毛色(灰褐色 Dun)が映えて人気だが、馬図鑑だと鹿毛・栗毛などの普通の毛色もありメタリックゴールドの艶が特徴とされている。
馬「らしさ」とは何で、作品にどういう風に必要か?
世界観(設定)ががっちりしていれば、そこに登場するモノをウマと読んでしまうものもあるし、
写実的な観点からは説明不能な構図でも、極めてウマらしい描写もある。
美しさを馬に投影しまくっていくと、作者も少し気恥ずかしさを感じたりするものなのかな?
※イラストをご覧になった方からのコメントを元にした補足
『アミルさんの「特別です」は、森先生の嗜好が凝縮された造形にあれこれ言われたくないという牽制か?』について
いただいたコメントにあるように、アハルテケの特徴がヨーロッパ人が経験値として築きあげてきた良馬のプロポーションにはなくとも、驚異的な能力を受け継いでいる馬という点で「特別です」とアミルさんがカルルクさんに言っていると思います。これは馬図鑑(※)でしっかりと触れられている内容になります。
私が馬術描写という視点として触れたのは、独特のプロポーションの馬を、他の馬達との関係でどのように描写するか?という点をスタートとしています。
森先生の作中には、魅力的な人物のみならず、アルキルク・アラクラ・スルキーク・チュバルといった馬達も非常に美しいプロポーションで描かれていて、多くの読者が受入易いイメージ通りの美しさを持っていると思います。
そこで14巻で登場したのがアハルテケのカルカシュカ。
馬図鑑にあるように、アハルテケは非常に高くて長く細い頸を持ち、体は筒状、背は長く、胸郭が狭く、腰は貧弱と散々な説明です。ただし、運動能力は誰もが驚愕する良馬なのです。
問題はそれをどう描写するのか?ということにあると思います。
読者のイメージの平均からやや外れたところにあるプロポーションを作中に登場させる場合、アルキルクなどのパーフェクトなプロポーションの馬に見劣りしてしまう恐れがあるではないでしょうか?
ジャハン・ビケさんのカルカシュカにそんなことがあってはなりません。
カルカシュカ(ジャハン・ビケさん)がアルキルク(アゼル兄さん)に引けを取らない存在であるために、カルカシュカはアハルテケという馬の特徴をもとに美化(デフォルメ)がとことんまで行われていると感じた次第です。
その美化のプロセスは、森先生の世界観そのもので、極めてプライベートな部分だと思います。
それはまるで、第1巻のあとがきちゃんちゃらマンガで、アミルさんが「弓が上手・姉さん女房・なんでもさばける・野生・天然・強い・でも乙女・でもお嬢様」である点に「清々しいまでに全部ブチ込んであります」と説明しているような「気恥ずかしさ」を抱いたのではないか?と感じたので、14巻でP174-P177で良馬のプロポーションについて語るアミルさんに対して、カルルクさんが「あのテケの馬は?」とカルカシュカを引き合いに問うと、アミルさんのアップ・ズームで「あの馬は特別です」(カルルク、汗たらり)と進んでいくやり取りが、アハルテケの特別性を超えて、カルカシュカの特別性について語っているように見えました。
※新アルティメイトブック 馬 E.H Edwards著 楠瀬良監訳 緑書房 2005年
→アハルテケのページは、Horses -Handbook-, E.H. Edwards, Dorling Kindersley, 1993 のAkhal-teke (P176-177) をベースに監訳していると思われる(同じ馬の別角度の写真)
→Hand bookはThe new Encyclopedia of the Horses, E.H Edwards, 1994 revised 2000のポケット版であるが、Akhal-teke(P74-75)はアルティメイトブックとHand bookとは違う馬
2022-12-07 14:51:33 +0000