【黎明航路】九雲【第2期】


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「……好きじゃないけど、度胸試しだから。――よぅく見てて」
「おしまい。おしまいだよ。……う、その、アンコールもなくて……っああもう、もう、おしまいだって!」


企画元:黎明航路【illust/100438853
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◇九雲/キウン(炎の国/15歳/男性)
父:鴇十【illust/102124572
母:アチェロさん【illust/102058838
 「ただいま戻りました。……久しぶり。変わりはないかな。お姉さんたちも元気だったよ。
  母上のこと気にしてたから連絡してあげたら? あと、父上によろしくね、ってさ」
姉:枝ノ芽さん【illust/103829454
 「ッだから! 出・な・い・ってば! あぁもう、新芽が入ってきたら余計ややこしく――
  いや、喧嘩してたんじゃないから。ちょっとシイ、待った待った! 」
兄:士葉さん【illust/103919248
 「次の舞台も渋々なんだけど……。ま、ショウが三味弾きならいいや。普段聞けないでしょ? 特等席なんだよ、実はね」
妹:琴鳴【illust/103084909
 「また雪国に行くんでしょ。ほーら図星だ。
  別に、聞かないけど。……気をつけて行きなよ。何かあったら僕らに言いな」

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朱鷺鬼衆に身を置く少年。
森の国にいたことが多く、朱鷺鬼にしては一風変わった舞いを披露する――が、当人は人前に立つのが得意でない。
得意なものは大振りな舞いと草笛。苦手なものは大勢の観衆と女性。
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素敵なご縁を頂きました
◇婚姻:星の国/プリカタムさん【illust/103149481

緞帳は上がり、鬼に朱鷺鬼、それから異風の出で立ちの来訪者なんかが、拍手喝采で演者を迎えた時から舞台は始まる。皆々の視線の先、そこに立つのは華やかな、我が衆きっての花の舞手ーーの筈だった。
……なんでこんなことになったんだ?
壇上に、何故か僕が上がっている。群衆がこちらを見ている。拍手が止んでしんとした空気が、とてもとても、やりづらい。
ーー嗚呼、こんな筈じゃなかった。こんな筈じゃなかったんだって!
仕方がないから、やるけど!
右の手くるり、回してはたと気が付いた。……そういえば傘。無い。いつも芸に使うやつ。
ふと見た観客席の奥、お人形みたいな子がくるりと番傘をひと回し。にこり笑ってる。

……あの子に貸してそのままじゃない? 傘。

即興。

即興だ。これ、即興でやるしかない。本番で?

(おしまいだ……)

*

外れの廃墟で練習する日の筈だった。
でも、街を下りる途中、およそ山登りじゃなさそうな身なりの子が、こんな天気で山道に進もうとするのを見ちゃって。心配して引き止めてみれば、どうもウチの舞台を見に行く途中で道に迷った、と言う。
それで……暇ではあったし、その子ってば傘のひとつも持ってないみたいだったから。送っていくことになったんだ。あんまり中に入ってあいつらに捕まるのは勘弁だけど、どうとでも逃げられるし、ってことで。ウチの入口までの筈だった。
――館に辿り着いて、とっとと退散しようとしてたところを同僚に見つかっちゃってさ。
「次の舞台に上がれ!」としがみつかれてしまったけど、でも全然逃げれるって踏んでいた。
そんなの僕を引きずり上げる口実だ。裏に“控え”がいるはずでしょ。僕は山村で芸の予定があるから。
そう、いつものように言っておしまいにする筈だった。

筈だったんだよ。

「あなたの舞とっても観たい!」
おしまいにする前に、隣から声がした。
連れてきたその子は、僕は山村に、と言いかける僕をよそに、あろうことか更に言った。
「さっき暇だと言っていたのに……?」




君ってば、初めて会った日からそんな感じだったから。「無茶な子だな」が、たぶん第一印象だったよ。
だってさ、止まってもない馬車から急に女の子が飛び出してくるだなんて、思わないでしょ? 暫く経った頃だったっけ。通りで芸をやってて、咄嗟に動きを止めてしまったのはあれが最初で最後だ。
君があんまり強引だから、僕の気持ちを汲んでずっと武者は怒っていたし、僕だってそれを止めなかった。
……悪いことしたなって、今は思ってるよ。

東の廃村だったね。技を見せてあげるつもりが、石垣が崩れて、僕は足を捻って。……あれ痛かったな。もう確かめようもないけど、多分折れてたかも。
僕が弱って、武者も殺気立っちゃって。心配して駆け寄ってきた君のこと噛み千切りそうで。
武者の暴れ方さ、覚えてる限りあれが1番凄かった。
でも、噛まれても構わないって顔で、君ってば必死だったから。
武者が静かになって引っ込んだ時は……本当に、びっくりしたんだ。
お陰で今も足はなんともない。っていうか君の角、おまじないなんてレベルじゃなくて……仰天した。

あの武者が、君を見て、そこで君のことを許してた。「本気」だったって、僕もわかった。

でもさ、やっぱり君って無理難題ばっかりでさ。勝手に日記に僕のこと書いて――いや書くだけなら別にいいんだけど、それを他の人に見せびらかしてたなんてさあ!
勢いで直してあげる、なんて言うんじゃなかったって今でも後悔してるんだよ。だって君の日記ってば、僕のことばかり!自分で自分のことを書かれた文を推敲する気持ち、わかる? わからないよね、地獄か何かだよ!? 君の頼みじゃなかったら、一生引き受けなかった。ほんッとに!

そんなだったから、君にはあけすけに何でも言えた。ずっとお小言に付き合わせてたから、遠慮しなかった。
でも、人を気にせず喋れるの、凄く楽だったし。
君が何でも笑ってくれるの、楽しかったんだ。

君が僕をどう思ってるのかなんて、知ってた。
だって、君言ってたし。知ってたけどさ。
……言うけど。君、やっぱ無茶苦茶だ。
前ばっかり見てて突き進んでくから、誰も止めないし、僕も止めれないし。
僕は、だけど。ファンって別に嬉しくないんだよ。こっちの気も知らずにさ、いつも一方的じゃん。

……いやなんだよね。それ。

プリカタム。君さあ。いい加減、こっちの立場にもなってくれなきゃ駄目なんじゃないの。

「……一緒に踊ってよ。僕がどう感じてるか、プリカも、身をもって知らなくちゃさ」

お手をどうぞ、お嬢さん。と。

息を呑み込んで伸べた手の先を、祈るように見つめた。

――僕の手を取ってくれ、って。

*

「……は? あれ伝わってなかったの!? 求婚に決まってるじゃ……」

「――っ、あああ〜もうもうホント、本当にこんな筈じゃなかった!!」

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2022-11-25 08:49:08 +0000