半機人の貴族騎士4[後編]

SILVIA
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エントランスの潜水艇発着場の前でヴェスターがルディに乗り込む寸前、待ってくだされというバルムの声が聞こえた。
「私もご一緒するのである。我が戦闘潜水艇に捕まって行けばあっという間に奴のアジトまで行けるのである!」
「ほー、そりゃあいい。頼むぜバルム!」
そしてヴェスターはルディに乗り込むと、勢いよく海水の中へ飛び込んだ。

城の門の前で待っているとバルムの戦闘潜水艇、マルンエイガーが現れた。胴体の左右から伸びた翼の端には魚雷発射装置と推進装置が装備されている。ヴェスターが胴体部分にしがみつくと、潜水艇は翼と胴にあるスクリューをフル回転させ、猛スピードで発進した。

しばらくすると巨大なクラゲのような潜水艇が見えてきた。そして、巨大クラゲから男の声が聞こえてきた。
「海底城の者か?姫を取り返しに来たか。だがそうはいかねぇ。こいつは俺の嫁にすると決めたんだ!」
「なんだと!?姫はどこだ!」
「あぁ、俺様の部屋でおねんねしてるぜ。これからお楽しみだってところで邪魔しに来やがって。てめぇらなんぞ海の藻屑にしてやる!」
クラゲの頭部から複数の魚雷が発射されるのと同時に複数の小型潜水艇が現れ、こちらに攻撃を開始した。ヴェスターは飛びのき、バルムは急旋回してかわす。
「ヴェスター殿、雑魚は私が引き受けるである!」
バルムはそう言うと敵の潜水艇を蹴散らしに向かった。

「じゃ、あんたの相手はこの俺だ。」
ヴェスターは巨大クラゲへと接近する。また魚雷が発射されたが全てかわした。更に近づくと触手が襲い掛かってきた。左手に剣を出現させ、次々に切り落とす。しかしその手が止まった。クラゲの触手が巻き付いたのである。それは脚や胴にも絡みつき締め付けられ、身動きが取れなくなった。だがそれだけでは済まなかった。触手から強力な電気が流れたのだ。電気ショックを浴びせられたヴェスターは喘ぎながら仰け反った。半機人は神経の全てが機械人形に接続されているため、機体に与えられたダメージがパイロットに伝わるのである。

「いかん、このままではヴェスター殿が!」
バルムは潜水艇の胴体からレーザー光線を発射し、数本の触手を切断した。
左腕が自由になったヴェスターはすかさず残りの触手を切り落とす。
「助かったぜバルム。」
「なんのなんの。こちらは全て片付けたのである。」
「よし、そろそろフィナーレといこうか。」
「ならば私に考えがあるのである。」
そう言うとバルムはヴェスターの後ろへ移動し、船体からアームを伸ばす。ヴェスターはそれが腰部分にガッチリと固定されるのを感じた。
「これは・・・」
「そう、合体である!私の潜水艇と合体して機動力の上がったヴェスター殿に、敵はないのである!」

潜水艇を背中に背負う形で合体したヴェスターは、剣を構えながらクラゲに突進する。そのスピードに、触手が追いつくことはできなかった。
「インペリアルブレイザーッ!」
ヴェスターはそう叫ぶと両手に握りしめた剣が光を放ち、刃が伸びた。それを上から下へ一気に振り下ろす。クラゲは真っ二つになり爆発四散してしまった。
「海の藻屑になったのは、あんたの方だったな。」

ヴェスター達は姫を救出すると海底城へと帰還した。
エントランスの発着場の海面からヴェスターが顔を出すと、それまで手のひらの上に座っていた姫はぴょんとジャンプし、王の間へとすっ飛んで行ってしまった。
「やれやれ、せっかちなお姫様だなぁ。」
「まだ子供ですし、早く母親に会いたいのでしょう。さ、我々も行きましょうか。」
ルディが無線通信で答えた。

王の間へ入ると王妃と姫がこちらを向いた。
「ヴェスター様にルディ様、そしてバルム、よくぞ我が娘、ローゼを助けていただきました。心から感謝申し上げます。」
「姫様が無事でよかったよ。」
「ヴェスター殿にはまた助けられてしまったであるなぁ。」
「ほんと、ヴェスターかっこよかったのよ!私、最初はベッドの上で寝てたんだけど、大きな音がして目が覚めたの。そしたらあなたたちが戦ってる姿が窓から見えて、きっと素敵な王子様が助けに来てくれたんだって思ったわ!」
そして笑顔で駆け寄ってきた。ルディのところへ。
「あの・・・私はルディと申します。ヴェスター様はこちらですよ。」
ルディは困惑しながら隣にいる弟を指さす。
「えぇ!?だってあの時戦ってたのはあなたでしょう?どうしてそっちの人間がヴェスターなのよ?」
そこですかさずヴェスターが、
「ルディの中に入って操縦してたのは俺なんだ。ほら、声だってそうだろう?だから、君の言う王子様っていうのは俺のことさ。」
「機械人形の中に、人が・・・?」
姫はまだ混乱しているようだった。
「ごめんなさいね。ローゼはまだ、バルムのような機械人形しか会ったことがないの。」
「それなら勘違いしても仕方がない、か。」
ヴェスターはやれやれという仕草をとった。

「そもそもこの城にいる機械人形は私だけなのである。」
「え、そうなのか?」
目を丸くするヴェスターにバルムは、機械人形は本来陸上用に作られたもので、水中向きではないのだと説明した。ならなぜバルムだけがここにいるのか。
「私は女王陛下に拾われたのである。海底で倒れているところを。どうして倒れていたのか、自分が何者なのか、名前以外何も思い出せず途方に暮れていたら、女王陛下がこの城で一緒に暮らそうと言って下さったのである。」
「そっか、記憶喪失だったんだな。」
「なに、そんな悲しげな顔をするな。私は満足しているのである。今の生活が、この場所が、気に入っているのでな。」
はっはっはと、バルムは笑った。
「それにしても、せっかくの休暇がとんだ1日になってしまったであるな。」
「そうですわ。お二人ともお疲れでしょう?ふかふかのベッドをご用意致しますの。ゆっくり休んでくださいな。」

ヴェスターとルディは客室へと案内された。紺色の壁と水色の絨毯が敷かれ、青色に統一された部屋は落ち着いた雰囲気であった。
「まさかバルムが記憶喪失だったなんてな。」
ヴェスターはベッドに腰掛けながらそう呟いた。
「でも、ちっとも寂しそうではありませんでしたね。」
ルディもヴェスターの隣に腰を掛ける。
「女王陛下に出会えたおかげだな。あんなに美人でしかも優しい。そりゃあ傍にいたくなるよ。きっと好きになっちゃったんだぜ。」
ヴェスターがそう言うとルディは微笑し、弟を抱き寄せた。
「私もヴェスター様が好きですよ。」
「お、おい急に何言ってるんだよっ!?」
照れくさそうに目をそむける弟の頭を固い指で優しく撫でる。
その心地よさと先の戦いの疲れから、ヴェスターの意識は、次第に深い眠りへと落ちていった。海よりも深い、兄の優しさと温もりに包まれながら。

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2022-10-16 08:52:21 +0000