深海のような静けさに、
溶け込み君は外を眺める。
誰もいない水族館はただ二人、
循環する水と泡が微かに響き、
互いの吐息が分かるほどだ。
水浸しの世界で漂う群衆は、
こちらを見下ろし眺めている。
彼らが織りなす
ホワイトブルーのオーロラが、
君の身体に降り注いでいる。
深海のような暗闇へ、
溶け込むために君は踏み出す。
「あたしは行くけど、アンタはどうする?」
振り向いて、君は何も言わず目線を送る。
自惚れでなければ、こう言っていたに違いない。
一歩踏み出すと、君は歩みを始める。
灯台のように、導くように。
静かな航海は続いていく。
たゆたうともたゆまずに、
縮まらない0.003海里。
こんな距離感の日があってもいいと、
漂う群衆を眺めて、歩みを止める。
心配性の灯台は、ぶっきらぼうに振り返り、
優しくこちらを照らし続けてくれていた。
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全文(3920字)は小説で
novel/18398532
2022-09-22 10:00:02 +0000