「コパコパ抜き打ち風水チェックだよ!」
休息日の早朝
大きな荷物を持ったコパノリッキーが玄関先に立っていた。特に用事はなかったのでお願いした。
彼女は靴を脱ぐ前に玄関周りをキョロキョロと見渡す。
「盛り塩ちゃんと交換してる。嫌なことがあったりなんか運が悪いなぁって思ったら早めに交換するのもアリだよ」
「そうなんだ。でも最近は嫌なこととかあんまりないかも。風水のおかげかな」
「そう言ってもらえると教えた甲斐があるよ。あ、でも靴は靴箱に入れようね。散らかってると玄関から入ってくる運気が分散しちゃうから。靴箱も定期的に掃除すること。この後一緒に掃除しよっか」
彼女は玄関に上がるとこちらの履き散らかした靴を整えリビングに入ってくる。
「ん~気になるところはいくつかあったけどとりあえず……トレーナー、これからの生活や仕事でなにか『したいこと』ってある?」
「最近ダートの層が厚くなってきたからライバルの情報は早めに取り入れたい。あと、より良いトレーニングメニューを考えたい……かな」
パッと思いついたことを彼女に伝えると「なるほどなるほど」と頷きながら歩き出す。
「だったらテレビ、パソコンの位置を変えよっか。東に置くことで仕事運がアップするよ。デスクの上にはなるべく物を置かないこと。置くのはライトや観葉植物とかにしておくと気が散らずに集中しやすくなるからね。あと、デスクの下には物を置かないと良いよ」
彼女は掃除機とハンディモップを持ちデスクへと近づく。モップを彼女からもらいデスク周りを片付ける。彼女はその間に掃除機をかけ始めた。
ある程度終わったところで、家具の移動を始める。ウマ娘である彼女がいるので移動は全く苦ではなかった。
「どうかな?」
「うん、なんか前よりしっくりくるかも」
笑顔で伝えると彼女はそれ以上の満面の笑みで頷いている。
「じゃあ次はトイレ見ちゃおっかな」
彼女は楽しそうにトイレの方へと向かう。
「寮のトイレだから仕方ないんだけど、窓がないから空気の循環が滞っちゃうんだよね。トイレは基本的に凶相。家の中で最も厄がたまりやすい場所だからこまめに掃除して清潔にね。盛り塩を置いて、水を流す時はフタを閉めると厄が広がるのを防ぐことができるよ」
彼女はピンク色の小皿に塩を盛り床に置いた。
いつもながら彼女の知識量には驚かされる。
方角に合った色があり、それに合わせて盛り塩を用意したりと手際よく行動している。
そして地味で面倒くさい掃除を率先して行っている。
トイレはさすがに申し訳ないので自分がやっているが、その間に彼女は玄関の靴箱の掃除をしていた。
「これも風水を知ってもらうため」
彼女はそう言って嫌な顔せず楽しそうに水拭きをしている。
地道な行動がトレーニングとも結びついているのだなと改めて思った。
一通り掃除が終わり、リビングで一息つく。気が付けばお昼時になっていた。
「それじゃあお昼ご飯つくるね。トレーナーは休んでていいよ」
彼女がキッチンに立ち料理を作り始める。その時も冷蔵庫は凶相になるから気を付けようというアドバイスをもらった。
「おまたせ~それじゃあ食べようか」
目の前に置かれた料理は八角形の皿に盛りつけられた焼きそばだった。野菜や肉がたくさん入ったボリュームのあるものだった。旬のものを食べると運気が上昇するという話を聞きながら食べた。
昼食を食べ終わり食器を片付ける。さすがにここは自分がやると言い、彼女は休ませる。
「座ってるけど、口は出しちゃうからね~?」
料理を振る舞ってもらったので言われたことはすべてやってみようと思う。
「それじゃあ調理器具と今拭いてる食器類はしまうようにしよっか。それとコンロ周りの油汚れはすぐにふき取る!あとゴミも溜め過ぎないようにする。『その日の汚れは翌日に持ち越さない』が、吉相のキッチンを作る鉄則だよ」
左人差し指を立てながら楽しそうに言う。
「言われて思ったんだけど、風水って『あたりまえ』のことをするんだな」
「そう。風水はあたりまえのことをあたりまえのようにやればいいの」
彼女に目をやると静かに微笑んでいた。
「幸運を取りに行くために『衣食住遊心』を整える。環境、色味は考え方に影響を与える。それが風水、『環境開運学』なんだよね」
天井に視線を上げる。
「立派な学問なんだけどな~。学園はまだ認めてくれないんだから」
「でもキミの活躍で確実に風水のこと知ってもらえてると思うよ。現に俺は風水はすごいって思ってるから」
「えへへ……ありがとう」
感謝の言葉を言った後、彼女は立ち上がりこちらに近づく。
「やっぱりキミと私は『相生』だね」
大きな瞳がこちらに向けられる。
彼女の活躍はこれからも続くし、風水のことも広めていきたいと改めて思った。
しかし、今日の彼女はやけに風水のことを話している気がする。いつもなら理論部分ももう少し短く話していた印象がある。
「ん?どうしたの?」
「いや、いつもより詳しく話してくれてたなぁって思ってさ」
彼女はにっこり笑っている。
「うんキミにはもっともっと知ってもらいたいからさ」
違和感を覚える。
この違和感は一度経験したことがあった。
「また『蓋』をしてない?」
「……なんで分かっちゃうのかなぁ」
彼女は風水で気持ちを底上げを出来る。そのため負の感情を蓋して抑え込む癖がある。
「なんか嫌なことでもあったの?」
動物園で小さな女の子に悲鳴をあげられて悲しかった時に感情に蓋をしていた。
だから直近で嫌な気分になったのではないかと考えた。
「嫌なことはないよ」
彼女はいつもの明るい笑顔を見せる。
「むしろとっても良い気分なんだよね」
人差し指を伸ばしながら言う。
「なら、蓋をする必要はないんじゃないのか?」
「私さ、こわいんだよね」
「こわい?」
陽が傾き始め、室内に入ってくる光量が減る。
「この『嬉しい』って気持ちを爆発させたらさ、何も考えず行動しちゃいそうなんだよね」
「何も考えず行動しちゃダメなの?」
「ダメだよ」
彼女の珍しい否定の声。
だがその表情はいつもの笑顔だ。
「私は風水がないと何もできないヒトなの。クリスマスの時のこと覚えてるでしょ?」
シニア期の時、クリスマスを一緒に過ごしたが、その時の彼女は風水なしで行動をして思い通りに行動出来ていなかった気がする。
「いつもなら『今度は上手く出来るはず』って思えるのにこれに関しては『次は失敗できない失敗したくない』って思っちゃってるんだよね」
「リッキー……」
「風水はコツコツと日々の積み重ねが大事なの」
彼女は再び人差し指を伸ばすポーズを取る。
「……また抜き打ち風水チェックしてくれるか?」
「もちろん!風水で『みんながハッピー』が私の目標だから」
コパノリッキーは八重歯を覗かすいつもの笑顔をみせるが、その指先は震えていた。
「これからもキミのこと応援していくつもりだから」
「……やっぱりキミと私は『相生』だね」
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全文(4663字)は小説で
novel/18276982
2022-09-02 11:06:06 +0000