illust/99985882 からの続き
ゼントラーディ兵に兵器を修理や修繕を行うという思想は持ち合わせていない。
整備も補給も機械による全自動化されているからだ。更に大きな故障をすれば廃棄し、新しい兵器で補うのだ。だから、定められた方法以外の運用は出来ない。
『それだけ分かれば十分です。位置情報はありますか?』
『ある……まさか、貴公が直接制御するとでも』
『やる価値は十分にあります……』
『…貴公の健闘を祈る』
エキセドルはそこで通信を一旦切り、マクロスに一旦、フォールド航法の発生装置のマッピン
グ図を送る。
「無茶だイチカ君!今、マクロスがそちらに向かう!それまで待て!」
会話を聞いていたタカトクが通信に割り込んできた。だが――
「その前に要塞が落着して、地球がダメにな
る!」
『…イチカ君…』
イチカにしては珍しく、タメ口で言い返してきた。
『それに YF-4のフォールド・クオーツの推力なら、何とか離脱できる』
その直後、レーダー上でイチカの機体が移動を開始した。
「ごめんなさいイっ君…またしても君に頼ることになった…」
束は通信越しに頭を下げる。もう、イチカの提案した方法に縋るしかなかった。
「イチカ少佐………エキセドル記録参謀閣下から送られたマッピングデータと、マクロスのフォールド航法発生装置のデータを送ります…」
「…頼む…」
クロエが俯いて通信を終える。その隣でタカトクは、呟くことしか出来なかった。
イチカは送られてきたマップを頼りに、数多ある坑道の中を進んでいた。途中敵に接触したが、相当混乱している有り様で攻撃を仕掛けてくることは無かった。もう大分マクロスから離れた場所にいる。そこへ――
『私も行くぞ』
「マドカ!?」
レーダーを頼りに駆け付けたであろマドカが、YF-4の隣に着いた。
「ダメだ、帰れ!今のお前の機体では、もう無理だ!」
イチカが叫ぶ。
既にマドカのVF-1S/SPは右足と左腕を失っており、頭部に至っては半壊していた。
『構わないさ…』
「マドカ…間違えるな…」
『…』
イチカは操縦レバーを強く握りしめながら、話しかける。
「俺は死にに行くんじゃない、自殺とは違うさ」
『でも…でも、もし失敗したら何十年何百年先か…下手したら何時帰れるか、分からないんだ
ぞ…』
「っ…」
マドカの言葉に、イチカは少し黙り込んだ。
『もう、同じ時は過ごせないかもしれない。やっと家族になれたのに…』
「分かっている」
『だったら…!』
マドカが叫ぶ。だが、モニター上のイチカは微笑んでいた。
「だけど、皆は同じ時を過ごせる」
『鈴とお腹の中の子には、同じ思いをさせたくないんだ』
その会話は、マクロスブリッジにも流れていた。
束は、イチカから発せられたある一言に驚いていた。
「お腹の中の子って…鈴ちゃんまさか!?」
束が驚愕して鈴に声を掛けるが、鈴は黙ってモニターのイチカとマドカを見ていた。
「これで最後にしたいんだ」
マドカからの返信はない。だが、時折涙を堪える様な声が漏れてきた。
「マドカ…生きていれば明日は来る」
『う…っく…』
「鈴に伝えてくれないか。『必ず帰る』って」
『……自分で言え…』
イチカが頼みを言うと、マドカはやや間を取って答えた。
『まだ、マクロスと繋がっている…自分で鈴に言え...』
マドカはポロポロと、涙を零しながら言う。
「そうか…」
イチカは、操縦レバーを握る己の手を見ながら答える。
そこへ――今度は鈴が通信してきた。
「…イチカ」
『…鈴』
鈴は手に握っていたマイクで、モニター上のイチカを見ながら話す。
「言いたい事は一杯あるわ。でも、今は『さよなら』なんて言わない。…無事に帰って来て」
鈴はイチカに心配させないように、努めて明るく話した。
『大丈夫だ。俺も「さよなら」なんて言わない…行ってきます』
既に、ブリッジはこの 2 人の会話で閉められていた。だが――クロエの言葉が、別れを告げた。
「目標地点まで後20。これより交信不能になります…」
「…YF-4、通信圏外に突入…」
「…いってらっしゃい…」
その直後、モニターからイチカの画面が砂嵐と共に消えた。
「じゃあな、マドカ」
『……うん…』
マドカの機体が直進を止め、ゆっくりと後退を始めた。下がっていくマドカを見ながらイチカ
は前進を再開する。
「俺は必ず戻ってくる。それまで…鈴とお腹の中の子を頼む…」
イチカは徐々に遠ざかっていくマドカの機体を見ながら、マドカに頼み込む。
「絶対に…守ってやる…絶対に…」
マドカは震える声で約束した。
「兄さん…」
イチカの機体はもう、遠くまで行ってしまった。
「帰って来たら…鈴やクロエ、束さんやタカトクさん達みんなで『お帰りなさい』って言ってやる…」
マドカは小さく呟いた。溢れ出る涙も拭かずに。
「…すまん…」
無言となったブリッジでタカトクが頭を下げて呟く。束は俯いて肩を震わせ、クロエはモニタ
ーに置いていた手が震えていた。ただ、その中でも鈴はモニターを見続けていた。
「…マクロスのエンジンに点火!マドカ君を回収して、艦隊と合流するぞ!」
程なくして、タカトクが大声で指示を出し始めた。
マクロスは何も出来ない訳じゃない。その巨体を無理矢理動かして、要塞外への移動を開始した。イチカへ時間位は稼ぐ事は出来る。その目的で、タカトクが吠えた。
「イチカ君の為に、時間を稼ぐぞ!」
2022-07-26 01:08:09 +0000